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ベンチャー経営者ならやりたいことを、とことんやっちゃえ! / 熱中の肖像インタビュー後編株式会社ダイヤモンドダイニング
代表取締役社長 松村 厚久

  • feedy

資金やノウハウの提供などで緩やかな連携
100人の経営者を育てるという新たな夢

「『ヴァンパイアカフェ』を立ち上げた年の大晦日の忘年会で、5年以内に3店舗まで増やして会社運営にしたいと社員に話しました。もしも、それより前にタイムマシンが目の前に現れて、『いま乗ったら、3店舗になった5年後に連れて行きますよ』といわれ、実際にそうしていたら、3店舗の経営で満足して終わっていたでしょう。結局、自分の可能性を信じられないからそうなるのです。私が会社運営にしたかったのは、さらに店舗増やすため。3店舗は単なる通過点であり、限界を決めることなく、自分が信じた道を突き進むことが何よりも大切なのです」

そう語る松村社長の店舗開発のポイントは、まず「立地」なのだという。街にはそれぞれその街の独自の顔がある。そこで、その街でどういった業態の店が繁盛していて、どのような業態が求められているのかを、徹底的に調査をしていく。様々なルートから物件情報が日々入ってくるが、このプロセスを外して成功はあり得ないのだ。

もちろん、すべてに松村社長がタッチするわけではなく、いまではそのほとんどを、企画制作本部の河内哲也本部長をはじめ社内の〝目利き〟に任せている。そして、立地とコンセプトについて最終的なゴーサインを出した後は、店長や料理長の候補者たちからなるチームに具体的な店づくりを委ねる。そうした権限委譲のシステムがあるからこそ、269もの店舗展開が可能なのだ。

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しかし、松村社長は「人を『信頼』してしまってはダメ。あくまでも人は『信用』する関係であるべきだと考えています」という。ここに松村社長の人材活用の妙があるような気がしてならない。信頼するということは、文字通り「相手を信じて頼る」ということ。頼った側には「甘え」「おもねり」が生まれる。万が一、頼ったことが実現されなければ、「反感」や「恨み」が残るだろう。

しかし、「信じて用いる」のであれば、当事者としての主体性がキープされる。また、何かあったときの最終責任は、信じて用いた自分にあることになる。部下の立場からすれば、一方的に信頼されると、その重圧に絶え切れなくなることもあるだろう。逆に信用されるのであれば、自分の力を思う存分、伸び伸びと発揮しやすくなる。14年3月の「第9回 S1サーバーグランプリ」の個人部門で、「わらわき屋六本木」の笠松美樹子店長が全国№1になったのも、そうした企業風土がベースにあったからなのではないか。

また、松村社長のモットーにしているのが「遊びの中に仕事があり、仕事の中に遊びがある」だ。松村社長の交友範囲は広く、「牛角」を運営するレインズインターナショナルの創業者で、その後ダイニングイノベーションを設立した兄貴と尊敬する西山知義社長、ハワイアンカフェ&ダイニングの「ALOHA TABLE」などを展開するゼットンの稲本健一社長、APカンパニー米山久社長ら、通常だとライバル関係にある同業他社の経営者たちとも頻繁に会食をともにしている。そうやって友好関係を温めながら、お互いに切磋琢磨しているのだ。

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13年4月にオープンした六本木のラウンジカフェ「1967」の店づくりにあたっては、クリエイティブディレクターにその稲本社長を指名し、インテリアデザイナーには世界的に有名な森田恭通氏を迎えた。松村社長が口を出したのは、店のキャッチコピーの「もっと遊べ、大人たち!!」の一言だけ。裃を脱いだ遊びのなかで肝胆相照らしてきた仲だからこそ、当たり前のように信用することができるのだろう。いまでは毎晩大勢のセレブが訪れ、シャンパンの「モエ・エ・シャンドン」が日本で一番多く抜栓される大繁盛店になっている。

また、11年の東日本大震災直後の苦境を乗り切っていくなかで、松村社長はマルチコンセプト戦略から「マッチブランド戦略」へシフト。わらやき屋や九州熱中屋のような中価格帯の居酒屋で多店舗展開を図る一方で、先ほどの「1967」をはじめ「焼き鳥 しの田」といった高価格帯のフラッグシップ店では厳選立地での出店にこだわる。そうやって幅広い層の人々にファンになってもらうことで、景気変動に左右されにくい企業体質へと脱皮しつつある。

そうした結果、ダイヤモンドダイニングの16年2月期の売上高は300億6800万円(前年同期比15.2%増)が予想されている。実は飲食業界には「300億円限界説」があり、ブランドの陳腐化などにより200億円台で停滞してしまうケースが多いというのが定説になっている。しかし、松村社長は「その限界説を打ち破り、次なる目標の『1000店舗・売上高1000億円』の達成に向けて、確かな手ごたえを感じています。ここから一気にいきますよ」と力強く語る。

松村社長にはもう一つ夢があって、それは「100人の経営者」を育てることだ。「1億円渡すから100店舗つくってみろ」といって09年に子会社「ゴールデンマジック」として独立させた山本勇太社長は、九州熱中屋のフランチャイズ化を推進するなどして、すでに96店舗を展開し、松村社長の期待に見事に応えている。「今後は、3、4店舗前後で足踏みしてしまっている飲食業でのアーリーベンチャーに対して、マジョリティーにこだわることなく出資し、同時に店舗開発などのノウハウなども提供することで幅広く支援して、ゆるやかな連携を取りながら、お互いに発展していきたい」と松村社長はいう。

経営者に悩みは付き物だ。立ちあがってから間もないベンチャー企業の経営者だと、なおさらのこと。しかし、何か悩みに直面したのなら、それが「やりたいこと」なのか、そうでないのかを真剣に問うべきだろう。そして、もしも本当に「やりたいこと」であるのなら、とことん「やっちゃった」ほうが松村社長のように人生は楽しくなるはず。冒頭に紹介した松村社長の言葉は、実は若き起業家に対する応援の言葉でもあるのだ。

インタビュアー

株式会社KSG
眞藤 健一