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富士フイルム、再生医療分野における画期的な研究成果間葉系幹細胞の抗炎症作用を大幅に高めることに成功

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富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、社長:助野 健児)は、細胞培養に適した当社独自の細胞外マトリックスと間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC)(*1)を組み合わせることで、MSCが持つ抗炎症作用を大幅に高めることに成功した事を発表した。

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以下、富士フィルム社より引用

細胞外マトリックスは、細胞の外側にあるコラーゲンといったタンパク質などで、生体組織の支持のみならず、細胞の増殖・分化などの調整にも重要な役割を果たすものです。富士フイルムは、長年の写真フィルムの研究で培ったコラーゲン技術や、遺伝子工学技術を用いて、動物由来成分を含まず高い安全性や生体適合性を実現する細胞外マトリックス「CellnestヒトI型コラーゲン様リコンビナントペプチド」(*2)(以下、「セルネスト」)を開発・上市しています。今回、この「セルネスト」を活用して、以下の研究成果に繋げています。

<研究成果の概要>

① 「セルネスト」のマイクロサイズのペタロイド状微細片(図1)とMSCを組み合わせて三次元細胞構造体「CellSaic(セルザイク)」(*3)(図2)にすると、炎症刺激に応じてMSCから産生される抗炎症液性因子(*4)の分泌量が3~4倍に高まることを実証。
② 炎症性腸疾患モデルマウスの実験において、上記の「セルザイク」を投与すると、炎症を鎮静化し、大腸の組織の再生が促進されていることも確認。
本研究成果は、MSCの抗炎症作用を飛躍的に高めてさまざまな組織の再生を可能にする画期的なものです。

【研究の背景】

再生医療は、損傷した臓器や組織を再生し機能を回復させる新しい医療技術です。その中でも、MSCを用いた治療は、生体への安全性と、炎症をはじめ脳梗塞や軟骨損傷などさまざまな疾患への効果が確認されており、注目を集めています。その作用メカニズムは、MSCが分泌する液性因子やMSCが細胞に接着することによる反応などの複合的な効果といわれています。しかし、MSCのみでの治療では、治療効果がバラついたり、十分な効果が得られないといった課題がありました。
富士フイルムは、これまで、動物由来成分を含まず安全な細胞外マトリックス「セルネスト」をマイクロサイズのペタロイド状にした微細片を開発。これと細胞を組み合わせて作製した「セルザイク」を用いて細胞治療の効果を高める研究を進めてきました。糖尿病モデルマウスの膵島移植実験においては、細胞の生着率を大幅に高め、血糖値を正常レベルまで下げることに成功し、細胞移植による治療効果を高めることを実証しています。
今回、MSCを用いた治療において、「セルザイク」活用による炎症性疾患の治療効果向上に関する研究を進め、以下の成果に繋げました。

【実験結果1】MSCから産生される、炎症刺激に応じた抗炎症液性因子TSG-6(*5)の分泌量が3~4倍に高まることを実証

(1)実験内容
ヒトの脂肪由来および骨髄由来の2種類のMSCを用いて、MSCのみの群とMSCを「セルザイク」にした群を用意。さらに、それぞれ炎症刺激であるTNFα(*6)添加群と非添加群に分けて48時間培養し、産生された抗炎症液性因子TSG-6の分泌量を比較しました。
(2)実験結果
TNFα添加群において、MSCのみで培養した場合と比べて、「セルザイク」にして培養した場合はTSG-6の分泌量が、脂肪由来のMSCで約3倍、骨髄由来のMSCで約4倍に向上しました。

 

【実験結果2】炎症性腸疾患モデルマウスの実験において、炎症を鎮静化し体重減少などの症状改善と大腸組織の回復を促進

(1)実験内容
炎症起因物質であるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を7日間飲ませることで炎症性腸疾患のモデルマウスを作製。
ヒトの脂肪由来のMSCのみの投与群、MSCを「セルザイク」にして投与した群(「セルザイク」投与群)、未投与群において、炎症性腸疾患の代表的な症状である体重減少や短腸化の改善状況を比較しました。なお、投与は実験開始7日目に腹腔内注射にて実施しています。
(2)実験結果
「セルザイク」投与群は、未投与群に比べ、体重減少の回復と大腸組織の再生が顕著に見られ、MSCのみの投与群と比較しても高い回復効果が確認できました。
この結果はMSCのみの場合と比べて、「セルザイク」では投与した細胞が炎症刺激に応答してより多くの抗炎症液性因子を分泌し高い抗炎症効果を生体内で発揮することで、治療効果が高まったからであると考えられます。

この研究成果から、「セルネスト」のペタロイド状微細片と細胞を組み合わせた「セルザイク」は、細胞移植や組織再生といったさまざまな再生医療への活用が期待できると考えています。なお、今回の研究成果は、2017年3月8日に仙台国際センターにおいて開催される「第16回日本再生医療学会」にて発表する予定です。
富士フイルムは、長年の写真フィルムの研究で培ってきた高機能素材技術やエンジニアリング技術と、Cellular Dynamics International, Inc(セルラー・ダイナミクス・インターナショナル)の世界トップのiPS細胞関連技術・ノウハウ、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの治療用細胞の生産技術など、再生医療関連のグループ会社の技術を活用し、再生医療分野の研究開発をさらに推進し、再生医療の産業化に貢献していきます。
*1 間葉(骨、軟骨、腱、脂肪など)に由来する体性幹細胞。主として間葉系細胞への分化能を持ち、さまざまな再生医療における細胞源として有望と考えられている。
*2 遺伝子工学を用いて酵母細胞に産生させた人工タンパク質。研究用試薬として、2014年12月より発売。コラーゲンは動物の結合組織を構成する主要タンパク質で、ヒトI型コラーゲンは骨や皮膚などに存在し、ヒトの全コラーゲンの95%を占める。
*3 細胞と細胞外マトリックスを組み合わせた、モザイク状の三次元細胞構造体。Cell and Scaffold, forming Mosaicのcellと、Mosaicのsaicを合わせた造語。
*4 液性因子とは細胞から分泌されるタンパク質で細胞間シグナル伝達物質。免疫、炎症に関係したものも多い。
*5 Tumor necrosis factor stimulated gene 6。炎症に関わる多機能タンパク質。抗炎症効果を有することが知られている。
*6 液性因子の一種である腫瘍壊死因子。炎症の主な原因物質の一つと言われており、TNFαがシグナルを伝達することで炎症性液性因子の産生量が増加する。