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熱中の肖像

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農業ベンチャー初の上場で、日本の農業の可能性を示す / 熱中の肖像 インタビュー後編

株式会社農業総合研究所 代表取締役社長 及川智正

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起業当初のサイドビジネスが「農家の直売所」の原点

起業の直後は、農家向けの経営コンサルティング、小売店とのマッチングビジネスを主眼としていたが、収入がなかなか得られなかった。「農家には、有料でコンサルを受けるという慣習がなかったからです」と、及川社長は明かす。奥さんには「毎月10万円は稼いで、家計に入れるから」と約束して、協力してもらった。最初の半年は、及川社長が学校でパソコン講師のアルバイトをして、糊口をしのいでいたという。「ただし、農家もメリットがあると喜んでくれ、作物を“現物支給”してくれたのです。そこで、原価ゼロで仕入れた農産物を自分で小売店に持ち込んで売るという、サイドビジネスも始めました」。「農家の直売所」事業は、実は、農産物卸として出発したわけだ。農産物を百貨店で直販したところ、顧客が殺到、販売実績は急上昇した。その評判を周囲の農家も聞きつけ、「うちの野菜や果物も売ってほしい」という依頼が次々に舞い込むようになった。及川社長はそれを見て、現在の農家の直売所につながるビジネスモデルを思いついたという。

「農産物の直販事業を始めるには10億円かかったのですが当時、融資してくれるベンチャーキャピタルもありません。そこで、投資が不要なので、SMの店頭を間借りすることにしました。青果店でなく、SMなのには理由があります。自分が青果店を営んでいた経験から言えば、八百屋は品揃えが限られ、集客力も高くありません。それに対して、SMは肉でも魚でも食材がワンストップで手に入る総合店だし、全国の至るところにあるので、農産物の直売所としては最適なのです」。

物流とITのプラットフォームを活かして新事業に進出

農家の直売所は、和歌山市内のSMでスタートしたが、たちまち大人気となり、すぐに3店舗に拡大、さらに、大阪のSMにも直売所を開設することになった。農作物の集荷、店舗への配達、会計管理といったあらゆる業務を、初めのうちは及川社長一人が切り盛りしていた。ところが、直売所が増えるにつれ、一人では賄いきれなくなってきた。事業開始から3年が経過、年商1億円規模になった頃、商品のロットがまとまったので、まず物流業務をアウトソーシングした。さらに、取引先の農家やSMとメールで行っていた受発注業務もシステム化した。「それが農産物の流通システムにおける物流とITのプラットフォームの雛形になりました。プラットフォームができれば、取引先をどんどん増やしていけるので、売上げも加速度的に拡大していきました」。マスコミからも注目されるようになり、全国メディアからの取材も相次ぎ、それによって、農家の直売所のオファーがまた増えるという好循環が生まれた。

このプラットフォームの大きな特徴と言えるのが、専用のバーコード発券システム。農家は、原則として集荷場で商品内容、販売店、小売価格を発券機に入力、バーコードシールを商品のパッケージに貼付する。「実は、商品のバーコードの構成は、SMによってそれぞれ違うのですが、当社ではそれを1台の発券機から、あらゆる店舗のバーコードを発券できるよう統一しているので、農家にとって利便性があります」。また、農家は、プラットフォームからきめ細かい販売情報を収集することもできる。現在、NTTドコモと提携、タブレット端末を通じた販売情報の配信サービスにも着手している。「自分で作ったどの種類の作物が、どの店舗で、どのくらい売れているのか、データが毎日更新されます。店舗全体の売上げ、ほかの農家や作物の販売動向といったデータまでわかります。そうしたデータを活用すれば、効率的な生産計画を立てやすくなるわけです」。情報端末の画面を使って、農業資材や農薬、種苗といった農家向けのBtoB広告を打つことも検討中だ。また、産地とタイアップし、商品に「ミカン狩り無料券」をつけたり、観光マップを入れたりするPRにも取り組み、「農村に人を呼び寄せ、地方振興にも役立てたいですね」と、及川社長は抱負を語る。

農家の直売所の小売価格が安いのは、直販しているだけではなく、物流コストが安いのもポイント。集荷場からSMまで8トン車で農作物を混載、まとめて配送しているので、積載効率が高い。物流効率のよいプラットフォームを活用した新ビジネスも、次々と打ち出していく方針だ。「当社の物流拠点をベースにすれば、大都市圏のSMだけでなく、外食店などにも食材の配送は可能です」。さらに、販売する商品カテゴリーを農産物だけでなく、水産物、畜産物といった消費財全般に拡げていくことも計画している。「目指すのは、“リアル楽天”です」と、及川社長の夢は尽きない。

農業総研は2016年6月、東証マザーズ上場も果たしている。及川社長いわく、「おそらく農業ベンチャーで日本初」という快挙だ。及川社長はIPOの理由について、「農学部の学生が農業関係に進まないのは、農業がカッコよくないから、将来性がないからです。それで、日本の農業にも大きなチャンスがあることを示したかったのです」と言い切る。日本の農業に新風を送り込みながら、農業総研の飛躍はまだまだ続きそうだ。

インタビュアー:野澤 正毅

前編はこちら >> 「日本の農業を産業化したい」 農業×ITでおいしい農産物の直販流通を実現

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