有料会員は2499社に増加
多業種の中小ベンチャー企業にとって手堅い市場のひとつに、官公需の入札がある。物品購入、役務提供、建設工事などで市場規模は約23兆円。入札情報サイトで国内最大級の情報量を有する「入札情報速報サービス NJSS(エヌジェス)」を運営する「うるる」社長の星知也氏によると、受注単価は平均2000万円である(うるる調べ)。
金額の多寡はともかく、官公庁や自治体との取引実績には信用力の向上や、売掛金回収リスクの回避などの利点がある。NJSSの利用企業数は2017年3月時点で、有料契約が2499社(前期比371社増)に達した。NJSSには、週3回、約6500におよぶ公共機関から収集した約970万件の入札・落札情報が登録されている。情報収集を担当しているのはクラウドワーカーで、検索エンジンでは収集できない案件も、目視と人力で収集している。
うるるのクラウドソーシングサービス「シュフティ」に登録するクラウドワーカーは約35万人。その一部がNJSSの情報集収業務を受託しているのだが、この仕組みがうるる固有のビジネスを作り上げている。
通常のクラウドソーシングビジネスはクライアントとクラウドワーカーのマッチングだが、うるるの場合、約4000社から受託するBPO業務の委託先として、自社でクラウドワーカーをリソースとして活用している。「シュフティ」は約1万4000社のユーザー企業にも開放しているが、一番のユーザーはうるるである。しかも、クラウドワーカーを活用した新事業も創出している。そのモデルケースがNJSSだ。
NJSSがスタートしたのは2008年。以降、各KPI(重要業績評価指標)をPDCAで廻しながら、主力事業に育て上げた。A/Bテストやランディングページ最適化で見込顧客数をアップさせ、テレマーケティングやリードナーチャリングで受注率をアップさせ、ユーザーインターフェイスとユーザーエクスペリエンスの改善で継続率をアップさせたのである。
うるるの成長には時代も味方した。星氏は「2005年頃には、ここまで在宅ワーカーが増えることは考えられませんでした。“働き方改革”をキーワードに在宅ワーカーが増えたことは、当社にとって追い風になりました」と振り返る。
17年3月に東証マザーズに上場すると、社内に変化が起きたという。
「上場によって取引先との関係では何かが変化したということはありませんが、社員の意識が変わりました。上場企業社員としての自覚が芽生え、振る舞いに品格が出てきて、コンプライアンス遵守も一段と徹底してきました」
17年3月期業績は、売上高17億2200万円、営業利益2億4100万円、経常利益2億1400万円。広告宣伝費と業務委託費で2億6000万円を投資した前期は営業利益、経常利益とも赤字だったが、一次的な投資にとどまり、売上高3億1000万円増によって、黒字化に転換できた。売上構成比は、NJSSを展開するCGS事業が53%、BPO事業が43%、クラウドソーシング事業が2%、その他2%という内訳だった。
経済ジャーナリスト
小野 貴史