帝京大学ラグビー部では、上級生自らが、新入部員向けの研修を行う。チームスローガン、テーマ、目標、練習の反省などを、新入部員全員が再認識することも目的の1つだが、真の狙いは、上級生が指導することを通じ、リーダーシップを発揮するための動機付けを与えることにある。
ラグビーは、試合中監督の指示を仰くことができないため、15人全員がリーダーとなり、その状況に応じてプレイヤー自身が適切な状況判断を行わなければならない。もしチームが、上意下達のヒエラルキー型組織であれば、上からの情報を待つ間に、状況が変わり、対応が後手に回ってしまう。野球のように攻守交替時に、監督が作戦を共有する時間が確保されておらず、ラグビーでは、そのルールの性質上、プレー中の瞬時の状況判断・発信・チームを動かすリーダーシップが求められているのだ。
前述の新入部員研修では、プレー中にリーダーシップを発揮すべきシーンを疑似体験ができる場となっており、講師役の上級生は、「主張」と、相手を納得させる「根拠」が求められる。これは試合での「状況判断(=主張)」と「状況判断の理由(根拠)」に相当し、研修で新入部員を納得させられなければ、試合で的確な状況判断ができなかった(リーダーシップが発揮できなかった)ことを意味する。これを踏まえ、選手は原因を考え、改善に努めるのだ。
また、研修だけでなく、練習においてもリーダーシップを鍛える訓練をしている。練習中、気になることがあった瞬間にプレーを中断し、それぞれの「主張」と「根拠」を学年関係なくぶつけ合い、お互い納得できるまで議論しているのだ。常日頃から、選手が主体的に状況判断する訓練を徹底的に繰り返すことで、試合中フィールドに監督がいなくても選手たち自身の判断で、試合を進めていくことができるようになっていく。
現代はインターネットの誕生により、ビジネスのスピードは格段に速まった。その結果、議論の前提自体が物凄いスピードで変わり得るため、意思決定者達の会議を経てから出された結論は、すでに陳腐化している恐れがある。だからこそ、権限移譲を行い現場で判断する重要性が高まっている。
ゆえに「その状況で瞬時に現場にいる個人が最善の判断を行い、周りを巻き込みながら実行するリーダーシップを有する人材」が求められているのではないだろうか。その点、帝京大学ラグビー部は従来の常識を覆す斬新な方法で、人材育成に成功している稀有な組織だ。この変化が激しい時代に生き残るための組織作りに悩んでいる方は、是非帝京大学ラグビー部の組織改革を参考にしていただければ幸いである。