41カ月連続で前年同月比を上回る
同社の業績を急伸させたのは「いきなり!ステーキ」の台頭だが、主力ブランドの「ペッパーランチ」も好調を持続し、既存店売上高は16年3月末で41カ月連続の前年同月比超を記録した。同社の全ブランド総店舗数は16年4月末で国内233店(直営130店・FC103店)、海外235店(全店ペッパーランチFC)の468店におよぶ。
当面の出店は「ペッパーランチ」と「いきなり!ステーキ」の2本立てで推進し、16年12月末までにそれぞれ20店、40店を新規出店する計画だ。「ペッパーランチ」の国内店舗数は16年4月末で99店(直営29店・FC70店)だから、計画どおり出店が進めば「いきなり!ステーキ」の店舗数は年内に「ペッパーランチ」の国内店舗数を上回る。
この計画を推進する過程で、重点的に取り組む強化策は「人づくりだ」(一瀬氏)という。そのインフラとして運営しているSV・店長会議に加え、新たに一瀬氏が講師となる社長道場を開いて、生き方、考え方など人間教育を施している。
一瀬氏はどんな社員像を望んでいるのだろうか。
「人として誇れる社員だ。すでに当社の社員はどこに出しても誇れる人間に成長したと思う。実際、社外からも評価が高い」。
基準となる価値観は「正笑=社長の熱き思い」と題する名刺サイズのクレド集に書かれてある。そのなかの「ペッペーフードサービス店訓」には「仕入先及び納入業者さんに対しても、常に感謝の心を忘れません」とある。多くの企業で価値観の内容は、顧客志向、公共志向、成長志向などに集約され、仕入先と納入業者への感謝を明文化するケースは少ない。一瀬氏が社員に求める心性が反映されているのではないだろうか。
過去に同社は不祥事、食中毒、継続の疑義などに直面した時期もあったが、これらの時期に苦難をともにした社員は、ほとんど在籍しているという。いまは「日本で最も働きたくなる外食産業の会社」をめざしている。一瀬氏に真意を聞いてみよう。
「社員はペッパーフードサービスに勤めながら、やがて結婚をして、子供を持つようになる。つまり、この会社を中心に人生設計を組み立てることになるのだから、子供が大学に入る時期には教育費に困らないだけの賃金を支払う必要がある。そのためには店舗数を増やして、昇進昇格ができるチャンスを用意しなければならない。
社員にはこの会社で働くことで幸せになってほしい。社長である私も幸せでありたいが、社長の幸せは社員の幸せによって支えられている。社員が幸せにならなければ、社長も幸せになれない。私はこのように原理原則から物事を考えている」。
一瀬氏は、質問をはさむ余地がないほどエネルギッシュに、いかにも楽しそうに話しつづけ、カメラを構える秋田美人の女性写真家に「きれいな方だね」と話しかけて、空気を和ませた。艱難辛苦を乗り越えて地歩を固めた創業経営者に特有の、一気に人を惹きつける磁力にあふれている。「一瀬社長は創業者らしくワンマンだが謙虚な人柄で、いつも何事にも一生懸命」(外食関係者)という評判だが、こういう経営者に勝利の女神は微笑むのかもしれない。
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大化けした「いきなり!ステーキ」PDCAの高速回転で成長力を持続 | 『熱中の肖像』株式会社ペッパーフードサービス 一瀬邦夫代表 前編
経済ジャーナリスト
小野 貴史