カンボジア国立銀行は、11月12日開催のシンガポール・フィンテック・フェスティバルに登壇し、「バコン」の概要と今後の展開を発表した。
デジタル通貨は、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産(仮想通貨)と異なり、法定通貨に連動して価値が安定し決済スピードや処理能力が高くファイナリティがあるため、利便性の高いデジタル決済手段として普及が見込まれており、中国のデジタル人民元(DCEP)、Facebookのリブラなどの開発が進められている。
世界経済フォーラムのレポートによると、世界40カ国以上の中央銀行がブロックチェーンを活用した決済システムを検討しているが、現在のところこれらの中央銀行が開発しているブロックチェーンシステムは実証実験の段階である。
そのような状況の中で、デジタル決済「バコン」は本年7月18日に正式導入に向けたテスト運用を開始し、すでにカンボジア国内最大の商業銀行アクレダを含む9つの銀行や決済事業者と接続して、数千人のアクティブユーザーが実際のお金を使って毎日送金や店舗での支払いを行っている。ブロックチェーンを活用した中央銀行デジタル決済の実用化としてはカンボジアが世界初であると言え、この歴史的な偉業に日本企業のソラミツが貢献できた事は非常に栄誉な事だ、と述べている。
「バコン」導入の目的は、金融包摂、金融政策力の維持、自国通貨の強化、銀行口座開設率の向上、電子商取引への対応、クロスボーダー取引などである。「バコン」は、現在の金融政策や従来のバンキングシステムを破壊するものではなく、それらをより効率的で安全なものにしする。
「バコン」はそれ自体が現金と同等の価値を持ち転々流通可能なトークン型のデジタル決済である。カンボジア国立銀行が主導的に運営し、全ての国民・全ての金融機関に提供する強固なセキュリティと十分な処理能力を備え、安全、簡単、迅速に、そして無料で現地通貨のリエルやUSドルの決済・送金が行える。また、利用者は、送金先の銀行口座番号を知る必要がなく、相手の携帯電話番号宛に直接送金したり、QRコードをスキャンして決済や送金を行うことができる。
「バコン」プロジェクトでは、1)個人間、企業間の送金や店舗・請求書などへの支払いを行うリテール決済システムと、2)高額の銀行間決済を瞬時に行うリアルタイム・グロス・セトルメント(RTGS)システムの両方をブロックチェーン化し、銀行API(ISO-20022)ネットワーク経由で従来のコアバンキングシステムと連結することにより、少額から高額の全ての決済や送金が一貫してブロックチェーンで処理されており、国家全体の決済アーキテクチャーの大幅な簡素化・低コスト化を実現した。
「バコン」はトークン型のデジタル決済であり「バコン」自体が現金と同等の価値を持ちファイナリティがあるため、リテール決済における加盟店での支払いや企業間の送金においても、現金決済と同様に後日の資金清算や振込指示・着金確認の必要がなく企業の業務が大幅に削減される。また「バコン」は転々流通可能なデジタル決済であるため、企業は「バコン」を受け取ると即座に仕入れなどの次の支払いが可能で、経済活動全体の資金の流動性が高まる。これらの特徴を備えたデジタル決済をオープンループ型と呼んでいる。
それに対して、日本の電子マネーやQRコード決済は口座型または支払指示型と呼ばれる決済手段であり、締め日において決済事業者と加盟店との間で資金清算を行い、後日に決済事業者は売上金を加盟店の銀行口座に振込み、加盟店は着金確認を実施する必要がある。また、転々流通できないため、加盟店は売上金が振り込まれるまで次の仕入れなどに売上金を使うことができないため、資金の流動性が低くなる。
高額の銀行間決済に関して「バコン」導入以前は1日に2回のバッチ処理で決済を行なっていたが、「バコン」導入後は銀行Aはカンボジア国立銀行のリザーブ口座から相当額の「バコン」を送金してもらい、この「バコン」を銀行Bに送金することで銀行間決済が完了するトークン型のリアルタイム・グロス・セトルメントシステムの採用により、コストを大幅に縮小しリアルタイムの銀行間決済を可能にしている。
トークン型・オープンループ型のデジタル決済の実現には、データの改ざんや複製を防止し、数学的に証明可能な所有権をユーザーに付与することができるブロックチェーン技術が不可欠であると言われている。
「バコン」の参加銀行は、銀行API(ISO-20022)ネットワーク経由で「ハイパーレジャーいろは」ブロックチェーンを使用する「バコン」プラットフォームに接続。利用者(個人、店舗、または企業)は、各銀行が提供するゲートウェイに接続し、「バコン」プラットフォームを介して相互に決済や送金を実施できる。
カンボジア国立銀行は直接利用者に「バコン」を発行しない。利用者の口座管理や本人確認業務も行わない。中央銀行が現金を発行する場合と同様に各銀行はカンボジア国立銀行から「バコン」を受け取り、各銀行が利用者に「バコン」を発行する間接発行方式を取っている。利用者の口座管理や本人確認業務は従来通り各銀行が行うため、中央銀行と各銀行との役割分担に変更はない。
カンボジア国立銀行は、リエルやUSドルの現金を回収しながら同額の「バコン」を発行しているので、市場の通貨流通量に変化は生じていない。カンボジア国立銀行は「バコン」システム全体を監査するが、各銀行は口座を保有する利用者の取引状況をモニタリングし、疑わしい取引の停止やアクセスの制限を行うことができる。
■銀行にとってはまたとない新規顧客開拓のチャンス
世界銀行の統計によると、カンボジアの15歳以上の78%の国民が銀行口座を開設していない。一方で、スマートフォンの国民への普及率は150%であり、多くの国民が2台のスマートフォンを所有している。広大な農村地域では銀行の支店も少なく、銀行口座の開設率は低い一方で、スマートフォンの使用は爆発的に増加。
「バコン」プロジェクトでは商業銀行と共に、利用者がスマートフォンのみで銀行サービスにアクセスできるアプリを提供していく。特に農村地域において、銀行にお金を預けていない人々に銀行サービスを提供することを目的とする。利用者は、銀行口座を所有していない場合でも、オンラインで「バコン」口座を開設できる。さらに利用者が本人確認を行って銀行口座を開設すれば「バコン」の利用限度額がアップし、「バコン」から銀行口座にワンクリックで資金移動ができるようになる。
このように「バコン」は、利用者にとってオンラインで気軽に開始できる決済手段であると同時に、カンボジアの金融機関にとっても、以前はアクセスが困難であった銀行口座を持たない人々に「バコン」サービスを提供し、銀行口座開設を促すことができる重要なツールになる。
■「バコン」を活用したクロスボーダー決済や送金システムを開発中
カンボジア国立銀行はタイ中央銀行との間で、両国で使用できるEMVco互換の共通QRコードベースの支払いシステムの導入に関する覚書に調印し、ソラミツ及びカンボジアの2つの銀行、タイの1つの銀行はクロスボーダー決済システムの開発を進めている。
カンボジア国立銀行は最近、マレーシアのメイバンクと契約を締結し、それぞれのデジタル決済プラットフォーム(バコンとメイバンク2u)が連携してクロスボーダーの送金を瞬時に行い、送金手数料を削減するシステムの構築に合意した。
スマートフォンやオンラインで完結する本人確認技術の進歩により、新規ユーザーの口座開設は非常に便利になった。まもなく国民や企業は、低コストで迅速な国内およびクロスボーダーの決済や送金サービスが利用できるようになると言う。
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