また、傑作と言える商品を世の中にリリースしても、世間の評判が悪ければそれもまた失敗です。多数の企業が集まって共同研究開発を行うオープンイノベーションでも、失敗した事例は山ほどあります。
今回は、そんなオープンイノベーションで失敗してしまった3つの事例を見ていきましょう。
企業が成長するためには、積極的なイノベーションを実践することが求められます。しかし、イノベーションの定義や必要性を分からずして、ただなんとなく手をつけてしまうと、企業の成長はおろか後退してしまう恐れさえあります。
現代経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーは、かつてこんな言葉を残しました。
イノベーションの仕事は、既存の事業から分離して
組織しなければならない。イノベーションの仕事を既存の事業を
担当する人に行わせるならば、失敗は目に見えている。
多くの方は、新事業の創造を”既存業務の延長線上”に置いて考える傾向があります。しかし、新事業と既存事業は全く異なるものであり、既存業務は100から110、120へと革新させるものであるのに対し、新事業は0から100を作り出すため、抜本的に構造を作り上げていく仕事です。
そんな新事業を立ち上げるためのイノベーションを、既存業務とパラレルで担ってしまうと軸がブレる可能性が高く、また、大勢の人たちが参画するイノベーションにおいて、共通の核を失ってしまえば成功は不可能と言えます。
アメリカの発明家 ディーン・ケーメンを中心に開発された電動立ち乗り二輪車「セグウェイ」です。
”交通手段を劇的に変える画期的な二輪車”として発表され、実物を見たビルゲイツやスティーブ・ジョブズらは「人間の移動形態を変える革命的な製品」と大絶賛。
ところが、発表後1台5,000ドル(当時およそ60万円)という高価格が原因で低迷し、期待値が高かっただけに”失敗した製品”というレッテルを貼られる結果となりました。
当初はアメリカで100万台の販売をしたのち、世界進出を視野に入れられていました。しかし、3年間の販売台数はわずか6,000台にとどまる結果に。
また、発表当時はグリーンエネルギーによって動くガソリンいらずのトランスポーテーションとして、環境に優しい車といった売り方がされていましたが、最高時速19kmであると車両としてはあまりにも遅く、「自転車の方が良いのでは?」という声さえも寄せられるほどでした。
アメリカでは、このような高価格の製品を購入できる人は、健康維持のために毎日ジョギングを行う傾向が高いため、そもそも需要と供給を考慮したマーケティングが失敗であったと考えられています。
1998年創業の台湾のコンピュータメーカー ASUS(エイスース)は、世界4位の規模を誇るPCメーカーとなっています。2008年に低価格路線だった従来の商品群よりもさらに安い299ユーロ(約4万円)で「Eee PC」を提供しました。機能性も十分で低価格なEee PCに消費者は食いつき、ドイツやフランスなどでは数日間で完売となりました。
小売業者曰く、本製品は需要が供給を900%上回ったといい、消費者から多大なる人気を得たEee PCは、売れるスピードに対し製造が追いつかなかったそうです。上記のセグウェイとは反対に、Eee PCはもっと高価格でも十分需要はあったと言われています。299ユーロ以上のお金を出しても良いと考える層をメインターゲットに設定し、増産の準備が整ったのち、一般大衆向けに価格を落とす「上層吸収戦略」を図るべきだったのです。
マーケットシェアの急速な拡大を目指して安価に値段設定したものの、予測をはるかに上回る需要に供給が追いつかないというまさかの結果に。莫大な利益を視野に入れたイノベーションのせいで、大きなビジネスチャンスを逃してしまいました。
Apple社が1992年に発表した世界初の個人用携帯情報端末「アップルニュートン」は、1993年から1998年までの5年間、市場に売り出されていました。ARMプロセッサを用い、手書き認識機能に備えた本製品でしたが、商業的には”失敗”と言われています。
理由として考えられる1つ目は、アップルニュートン本体の価格が高すぎたことに問題がありました。2000型と2100型の2タイプともに1,000ドル近い値が張られ、いくら手書き機能があるとはいえ、さすがに個人用携帯情報端末に1,000ドルは高すぎです。
2つ目は、サイズ感があまりにも大きすぎたことも失敗の原因に挙げられています。118.7×210.3×27.5mmの大きさで、標準的なコートやシャツ、パンツなどのポケットに収まる大きさではありませんでした。
こうした理由からアップルニュートンは世間から名声を得ることができず、低迷する一方となってしまったのです。しかし、一部の方々からは「元祖iPhone」と称されており、現代から振り返れば画期的な商品だったとも言われています。時代をあまりにも先取りしすぎたという部分でも、成功を収められなかったようです。
自社や外部からさまざまな意見を混ぜ合わせ、新事業を企画・開発していく過程の中で、無造作に製品を作り発売に向けた準備を行っているようでは、とても成功には近づけません。訴求するターゲット層がどの程度の支払い意思があるのか、求められているニーズは何かを明確にすることで、イノベーションの失敗リスクは軽減できるのではないでしょうか。