目的から考えてみましょう。新規事業における企画書作成の目的は2つあります。
(1) 投資判断する相手に的確に企画の内容を伝える
(2) 企画を具体化・精緻化する
あなたが作成しようとしている企画書の読み手は、自社の経営層か、アクセラレーションプログラムを実施している企業の経営層/外部審査員/運営事務局という場合が多いと思います。いずれの読み手も、あなたの進めようとしている新規事業に関する知識はさほど多くないと想定されます。
しかし知識が少ないことに対して、分厚い資料を作ればいいかというとそうでもありません。経営層をはじめとした読み手は極めて多忙なので、事業の魅力と実現性の理解や投資の意思決定にあたって重要な点に絞って企画書を作成する必要があるのです。
その要件を踏まえると、企画書に含むべきポイントとして以下の3つが挙げられます。
①事業のゴール
②事業の骨子
③収支計画
また、これらの要素の検討・整理を進め、企画書をまとめ上げていく中で、作成者は企画を具体化・精緻化することができます。その観点も踏まえて、各ポイントを見ていきましょう。
事業の魅力を経営層に的確に伝えるためには、この事業が狙い通りうまく進んだときのゴールの絵姿を見せることが有効です。
定性・定量それぞれの観点からそのゴールを整理してみましょう。
定性的なゴールとは、一般的にビジョンと呼ばれるもので、この事業を推進することによって、ターゲットとする顧客のどのような課題(不安・不満・不便など)が解決されるのか、そのときどのような世界が実現されるのかを明確にしたものです。
「誰の、どの課題を、どのように解決するのか?」という点は、「マーケットインか?プロダクトアウトか?」<https://relic.co.jp/battery/articles/11740>という記事にてご説明しているので、ぜひ参照ください。
一方、定量的なゴールとは、KGI(Key Goal Indicator)と呼ばれる、重要目標達成指標を指します。経営層は新規事業の企画書を見て、それが魅力的な事業なのか、投資に値するのか厳しく見極めます。そのときの判断材料として、何年後にどれだけの売上・利益になるのかを、上記のビジョンとともに提示することが重要です。
上記の通り、まずは事業のゴールを提示することが有効/必要とご説明しました。しかし、ゴールの提示だけでは、事業の実現可能性を経営層に伝えることはできません。
・この事業のターゲット顧客は誰なのか、どれだけ存在しているのか
・そのターゲット顧客はどのような課題を持っているか
・その課題はなぜ他の事業や競合他社では解決できないのか
・この事業を推進するにあたって、外部の企業とパートナーシップを組む必要があるのか、
といったことを検討し、事業内容を伝える必要があります。
ここで押さえるべき検討事項はインセプションデッキというフレームワークで概ねカバーできます。「インセプションデッキで新規事業のアイデアを磨き込む」<https://relic.co.jp/battery/articles/17858>という記事で説明しているので、こちらも参照ください。
事業のゴールを提示し、事業の骨子を伝えた後、経営層は何を気にするでしょうか?
それはゴールに至るまでの道のりですそして、その道のりを伝えるための資料が「収支計画」です。
収支計画は横軸に3~5年の時間軸(※事業内容や経営層の求める時間軸によって様々)を取り、縦軸に売上や費用、そして売上と費用を差し引きした利益をまとめた表です。
いつ、どれだけの費用を掛けて、いつ、どれだけの売上が見込めるかをまとめたものです。経営層はこの資料を見て、具体的な投資判断ができるようになります。
そして、新規事業を進めるみなさんにとっても、この収支計画は極めて重要な意味を持ちます。売上や費用の算出を進める中で、「この計画では経営層の承認を得られない。新たな顧客層をに含めて、売上の拡大を狙えないか?」「より多くのターゲット顧客に受け入れてもらうためには、何をすべきか?」といった思考を重ねる必要があります。収支計画策定は、事業を深く検討するプロセスそのものなのです。
それでは、これまでにご説明したポイントを踏まえて、どのような流れで企画書を作成すべきなのでしょうか?
弊社のこれまでの新規事業ご支援の経験から、有効な作成の流れをご紹介します。
※以下はあくまで企画検討・企画書作成の流れであり、企画書内のページ順ではありません。
・「誰の、どの課題を、どのように解決するのか?」の明確化
・「誰の、どの課題を、どのように解決するのか?」を踏まえた、事業概要の明確化
・事業概要を踏まえた、事業が実現したときのビジョンの明確化
・事業概要を踏まえた、収支計画に含む項目の分解
例えば、
– 売上は商品/サービス毎の単価と数量に分ける
– 費用はこの事業に必要な費用項目(労務費・開発費・広告宣伝費など)を洗い出す
など
・収支計画に関連する数値のリサーチ
例えば、
– ターゲットとする顧客がどれほど存在するか
– 競合の商品/サービスの価格はいくらか
など
・上記の検討・調査内容を企画書にまとめる
ただし、これらの流れは一度で終わるものではありません。既存事業と比べて、新規事業は不確実性が非常に高い世界ですので、仮説立案・検証を繰り返し、行きつ戻りつしながら内容を精緻化していく進め方が必要となります。
今回、新規事業の企画書に含むべきポイントと作成の流れをご紹介しました。
新規事業の企画書作成を、審査のためのただの書類作成と捉えず、事業構想の具体化・精緻化の手段と捉えて活用されることを願ってやみません。