日本のデジタルカメラ事業は、世界のカメラ市場に大きな影響を与えています。高度な撮影スキルや経験がなくとも、簡単に綺麗な写真を撮ることができる高性能かつ高価格な一眼レフデジタルカメラは、持続的イノベーションの顕著な例として知られています。ところが、カメラ機能の備わった携帯電話の登場によりデジタルカメラの売上は低迷し始め、当初こそ高画質・カメラサイズの大きさなどで差別化が図れていましたが、スマートフォンの登場により、画質・サイズともに優れた写真の撮影が可能となり、一気にカメラ市場は変化しました。
携帯電話という全く異なる製品がもたらす破滅的なイノベーションを予想することができず、まさにイノベーションのジレンマに陥ってしまった事例として知られています。おかげで現在デジタルカメラはカメラ市場においても苦戦を強いられているようです。
リーズナブルな値段で豊富なメニューを提供できる居酒屋チェーン店の登場は、1980年代頃から急激に進化し国内の外食市場のシェアを一気に変えました。ところが、高品質かつ低価格な食材やサービスを提供することで、顧客の要望は次第に上昇していき、さらに深刻な人手不足による長時間労働や過労死が社会問題化したことで、ブラック企業が多いというイメージが広がったことをきっかけに、企業の潤いが逆効果に働いてしまったと言われています。
その結果、これまで非効率と見なされていた手法により新たな価値を提供する新興居酒屋が好評となり、全国展開を前提としたチェーン店が一気に減るようになりました。これも過去の成功体験による事業展開に終始してしまうというイノベーションのジレンマと捉えられるでしょう。
実際、代表的な居酒屋チェーン店として知られる「和民」は、2008年頃から外食事業の業績悪化に陥り、軌道修正の意思決定を行うまでの間、さまざまなイノベーションを実施しましたが、ブラック企業のイメージが根付いたり、巨額な赤字を繰り返したりして、2016年頃まではまさにジレンマに陥った期間となっていました。
イノベーションを行うには、不確実性とリスクが常につきまといます。それらをしっかりとコントロールしなければ、イノベーションを含めた新規事業を立ち上げることはできません。また、そうしたイノベーションを行うにあたる不確実性やリスクなどは、上司や経営陣に提案する際にきちんと説明することが大切です。というのも、不確実性とリスクを把握した上で、どれほどの経営資源を投資できるかという判断にも繋がり、数ある不確実性に対して、可視化・検証という作業を繰り返すことで、確信につながり、イノベーションを生み出しやすい環境を構築することができます。
そのため、新たなるイノベーションを実施する際には、それにまつわる不確実性とリスクをあぶり出し、それを踏まえた上でどのような施策に打ち出せるかを考え、うまい具合にコントロールをしながら進めていく必要があります。
さて、今回はイノベーションのジレンマについて解説しました。今の時代、企業の大きさに関わらず、イノベーションのジレンマを正しく理解しておく必要があり、次世代を担うような企業へと成長していくことが、企業経営として求められていることです。今後、新たなイノベーションに取り組まれる予定の方は、ぜひこの記事を参考にして実践してみてください。