第3次産業は、目に見えないサービスや情報などの生産を行う産業です。金融、保険、卸売り、小売、サービス業、情報通信業などがこれにあたります。第三次産業の労働者の多くが背広に白いカッターシャツという服装なので、彼らはホワイトカラーと呼ばれます。
では、これら3つに分類されない「6次産業」とはどのようなものなのでしょうか。
6次産業とは、農林漁業者(第1次産業)が 、生産の価値を高めるために加工・ブランド化(第2次産業)などを行い、 流通・販売することで利益を向上させる(第3次産業)ことです。
農林水産省によると、この6次産業を通じて、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出し、農山漁村の所得の向上や雇用の確保を目指しているといいます。
6次産業は、上記の第1次産業、第2次産業、第3次産業の数字をそれぞれ足した、もしくは掛け合わせた言葉です。そのため、とりわけ第4次、第5次が存在するわけではありません。ちなみに6次産業という言葉は、1994年に現東京大学名誉教授の今村奈良臣氏が提唱した造語で、農業経営の多角化による収入向上および就業機会の増大が主目的とされています。
農林水産省は経済産業省と連携し、平成20年度(2008年)から、農林水産業者と商工業者がそれぞれの有する経営資源を互いに持ち寄り、新商品・新サービスの開発等に取り組む「農商工連携」を支援しています。第1次産業者である農業と、商業や工業が連携し、事業拡大および雇用創出を行っていく内容です。
大まかに捉えると、6次産業との違いはそれほどありませんが、ざっくり言うと、農商工連携は農業、商業、工業などの”連携”、6次産業は第1〜第3次産業の掛け合わせとなっています。
そんな6次産業のメリットおよびデメリットについて、それぞれ3つずつ見ていきましょう。
第1次産業のみでは得られなかった収益が得られるようになり、農産物に付加価値をつけて販売できるようになったため、所得の向上が期待できます。また、農産物を市場に出荷するのに比べて、価格変動の幅が小さいため、安定的な収入も見込めます。
農閑期には加工業務を行えるなど、労働負担を軽減しつつ、均一化を図ることができるようになります。また、産業が育つことにより、若い人の雇用も拡大していくと予想されています。
6次産業で所得向上や雇用創出が起こることにより、地域活性化にも期待が寄せられます。これによって、地元の文化や資源を継承することにもつながっていくでしょう。
6次産業では、先述の通り第1次から第3次までを網羅しているため、商品開発やパッケージデザイン、設備など、加工品を商品として販売するまでに、巨額な初期費用がかかってしまいます。
食品加工には、徹底的な衛生管理が必要となります。適切な取り組みを行わずに食品事故を起こしてしまった場合、信用性を損なうだけでなく、事業自体の存続も危ぶまれてしまいます。
生産にまつわる技術や知識、経験が豊富であっても、加工や流通、販売の知識も持ち合わせなければなりません。商品ができても売り方を知らなければ在庫を抱えることになってしまいます。
ではここで、6次産業化事例について3つほど紹介していきます。
千葉県八千代市にある農家の長女として生まれた、立川あゆみさん。アパレル会社でデザイナーとして勤務したのち、お笑いタレントの道へ。結婚をきっかけに専業主婦となるも、夫が他界し、2人の子どもを育てながら2005年よりフラワーアレンジメント教室や飲食店を始めます。
その後、農家を営む高齢の両親が懸命に土地を守ろうとしている姿を見て、「実家の農家を元気にして、育った土地や両親に恩返しをしたい」と、3年前に就農を決意し、現在パクチー生産者の肩書きを持っています。
立川さんは、パクチーを収穫したらすぐ出荷に移るため、フレッシュな状態で消費者のもとに提供するというのが魅力です。しかし、それだけでは他のパクチー農家との差別化が図りづらいと考え、千葉県船橋市のダイニングバー『hygge』のオーナーシェフと共同開発したパクチーペースト「PAKUCI SISTERS」を、立川さんの似顔絵ロゴマーク付きで販売することにしました。
これをきっかけに、立川さんとPAKUCI SISTERSは、さまざまなメディアに紹介されるようになり、知名度と認知度が一気に上昇。さらに、主婦向けの通販雑誌から商品カタログで取り扱いたいという話があり、表紙にも取り上げられました。
有限会社ひよこカンパニーは、鶏本来の自然な姿で飼育するため、1994年に八頭郡八頭町に「大江ノ郷自然牧場」を創業しました。『平飼い』という方法で鶏を飼育し、化学薬品等を一切使わないこだわりの飼料を与え産卵される「天美卵」(てんびらん)は、採卵した当日にお客様のもとへ発送、濃厚かつ安心して生で食べられる卵として好評価を得ています。
そんなひよこカンパニーは、2015年、以下の2つを目的に6次産業へと参入しました。
健康を重視した養鶏によるこだわり卵を生産し、「天美卵」としてブランド化を実施
朝採れ卵の通信販売を本格的に開始し、ブランドを成長させ、顧客への訴求力のある商品開発と、おもてなしの場となるカフェの開設
これに向け、同社では1個100円する天美卵を無料で配布し、食べてその価値を理解してもらおうと顧客の拡大を図り、また消費地から遠い立地に直売所・カフェがあることから、自然豊かな景観を生かすとともに、季節ごとのイベントを開催し、集客力を向上させる取り組みを実施。
これら2つの取り組みを行った結果、2008年度と比べて売上高が約3倍に増加したり、雇用者数が100名を突破したり、来店者数が12万人以上になったりと、さまざまな成果を為す形となりました。また、2015年度の6次産業化優良事例表彰「食料産業局長」も受賞しています。
奄美群島の北東にある喜界島では、伝承作物の島そら豆を使った6次産業化に取り組んでいます。
喜界島では地域活性化を目指し、乾燥させた島そら豆を原料とした「そら豆醤油」を作り、製品化することに。そら豆醤油はグルテンフリーという特徴があるため、小麦や大豆アレルギーの方でも安心して食べることができ、またダイエットや美容などの作用にも期待できます。
喜界島では、この取り組みの認知度を拡大させるため、クラウドファンディングのCAMPFIREを活用しました。これにより、認知度拡大、資金調達、地域活性化の3つを目標に掲げ、生産者の熱い想いを広く伝える活動に勤しんでいるようです。
このクラウドファンディングのプロジェクト『日本初!!純国産グルテンフリーしょうゆを作りたい!』は、生産者や協力者だけでなく、行政や地域の企業なども巻き込み、島全体を上げてのムーブメントに発展していき、およそ60万円の資金調達に成功。全国からの注目度も高まり、メディアでは喜界島のそら豆のことを知った企業からの問い合わせが殺到する展開もありました。
地方の過疎化や農山漁村における人手不足が進んでいる昨今、日本の農業、水産業の継承が危ぶまれています。それに先立ち、現在農業や水産業を営んでいる人たちには、さらに多角化した経営を目指してもらい、収益率をアップさせ地域活性化を図ってもらうことが求められています。
ところが、生産から製造販売までを自営で行うのは厳しく、地域や国が支援、もしくは法人化してビジネス経営を行う取り組みが必要な状況です。製造販売では品質管理や衛生面に関する知識が不可欠なため、活性化にたどり着くまでには時間がかかりますが、6次産業が成功すれば高収益を見込め、継承が危うい日本の農業、水産業が拡大していくことに期待できます。