例えば、関西の食品メーカーAの事例で考えてみましょう。この企業の持つ自社の商品や技術などを、縦軸を市場性の高低、横軸を自社の競争力の高低とした四象限に切り分け、プロットしていきます。
この食品メーカーAは創業から永きに渡って幅広い食品や飲料を開発・生産を続けてきましたが、市場の成熟に伴い売上の伸び悩みや利益率の低下が見受けられるようになり、今後の成長戦略や新規事業開発に関して課題を抱えていました。
しかし、その一方でこれまで自社内で新規事業開発に力を入れたことが無く、また客観的に見た自社の強みなども整理が必要だったため、専門家を招き入れ、オープン・イノベーションに取り組むことになりました。
簡単に整理すると、市場性も無く、優位性も無い商品や技術に関しては撤退を検討すべきだと考えられますし、競争力はあるものの、市場性が低い分類に関しては、大きな成長が見込めないため、ニッチな市場でトップを狙うアプローチで継続するか、市場の転換も視野に入れる必要があります。
一方で、市場性は高いものの、自社に競争力が無い分類に関しては、その領域で強みを持つ外部の企業と連携、すなわちオープン・イノベーションを活用した方がスピーディかつ優位性のある事業展開が見込めると考えられます。そして、市場性が高く、競争力も高い分野に関しては自社のコアコンピタンスとして中長期に渡って優位性を構築し、利益を生み続ける事業になる可能性が高いと考えられるため、自前で、すなわちクローズド・イノベーションに注力すべき領域だと整理することができます。
このメーカーでは、発酵食品の領域では他社の技術と連携して新商品の開発に着手し、一方で自社内の機能性食品に関する研究開発体制を強化することで、後の中長期の成長戦略を実現させようと推進しています。
オープン・イノベーションを経営に活かす場合、その性質上、どうしても短期的かつスピーディに事業や技術開発をすることに重きが置かれがちですが、中長期的に会社を経営し、事業を成長させていくためには短期的な視点だけでは不十分なのはご承知の通りかと思います。
そこで、オープン・イノベーションに取り組む際には、短期と中長期という時間軸と各々の市場トレンドや顧客ニーズという観点と、活用する技術によって、事業開発のアプローチを整理することが有効です。
中長期での市場トレンドを見て有望市場に参入するのか、それとも既存市場の短期的で顕在化ニーズに対応していくのかで大きくアプローチや実現までの時間、期待できる収益性などは異なりますし、それぞれにおいて自社技術や資源を活用するクローズド・イノベーションを重視するか、オープン・イノベーションを重視するかで事業推進の最適なプロセスや協業の仕方も変わります。
オープン・イノベーションに取り組む際には、全体の中長期の経営戦略の中でどう位置づけるかを事前に整理しておくことが非常に重要になります。