オープンイノベーションが生まれた背景ユーザーからの要望が高度化している昨今、競合企業との競争は激しいものとなっており、研究開発部門に対する要求は高まる一方で、研究開発に許される開発期間は年々縮小傾向となっています。言い換えると、”求められるもの”が大きくなるのにも関わらず、”できること”が少なくなってしまうというジレンマに陥っているとも言えるでしょう。これらの問題を解決すべくいくつかの製薬会社が、「外部の知見を活用する」という発想に至りました。これが、オープンイノベーションという考え方の始まりです。これまでも、グループ会社や付き合いのある大学、研究機関などと共同開発に取り組むといった姿勢はありましたが、要求されるレベルに達するには不十分なものも多くありました。そこで、新しい外部の技術やスキルをグローバルに見出し活用していこうという発想が芽生え、これもオープンイノベーションが生まれる理由となりました。製薬会社も例外ではありません。バイオベンチャーやアカデミアの有する創薬シーズや技術を取り入れることにより、近年、革新的な創薬を創出する試みがなされています。なぜオープンイノベーションが必要なのか?これまで、医薬品の研究は極めてクローズド[1]となっていましたが、社外に目を向けるオープンイノベーションにシフトチェンジする必要に迫られています。その理由には以下のような事柄が挙げられます。 2010年前後のブロックバスターの相次ぐ特許切れ[2] 大型新薬創出のための疾患標的分子の枯渇 研究費に対する新薬創出の成功率の低下 少子高齢化等による社会環境の変化これら4つの事柄は主に低分子化合物を中心としたビジネスモデルの破綻を表しており、特定の患者の要望に応えるための新薬開発が強く求められています。そのため、メガファーマを中心としたバイオ医薬品や核酸医薬品の開発に注力する企業が増えています。上市される新薬は、 ①製薬会社による改良医薬品、②バイオベンチャーやアカデミアなどによる画期的新薬に大別されます。そのため、革新的な新薬創出には、製薬会社単独で研究を進めるよりも、有望な創薬シーズを有するバイオベンチャーやアカデミアとの共同開発を実施する方が、開発スピードやコスト改善のためには有効です。製薬業界でのコラボレーションは、やはり画期的な新薬創出を目指したものが中心となっていますが、「通院せずに患者情報をモニタリングできるデバイス開発」「機密性の高い情報を管理するためのブロックチェーン」など、最近では異業種とのコラボレーションまで、幅広いオープンイノベーションの取り組みがなされています。製薬会社のオープンイノベーション事例では、実際にオープンイノベーションを取り入れた製薬会社事例について見てみましょう。大塚製薬『L-RAD』大塚製薬は、「サムスカ」「エビリファイ」「デルティバ」、世界初のデジタルメディスンである「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite)」に代表される独創的かつ革新的製品の創出と世界の患者さんへの貢献を基本戦略に創薬研究を行っています。中枢・神経領域とがん領域を中心に、腎・循環器、感染症、眼科・皮膚領域の様々な疾患のアンメットメディカルニーズに果敢に挑戦し、グローバルサテライト研究所体制のもと医薬品の創生に取り組んでいます。[3]大塚製薬は自社の創薬研究の強みと、アカデミア、バイオベンチャーの技術・知見を融合させた「水平協業」に取り組むべく、オープンイノベーションプラットフォーム『L-RAD』に参画しており、今後さらなる強固な創薬基盤の構築を目指しているようです。アステラス製薬『a-cube』アステラス製薬では、オープンイノベーションの取り組みのひとつとして、2011年度から研究公募サイト『a-cube』を展開しています。通年募集という形式をとっており、これまで接点のなかった研究者や企業と提携機会を持つことができ、自社内の発想だけでは見出せなかった成果を生み出すことができているようです。[4]シオノギ製薬『FINDS』シオノギ製薬は、2016年10月から2017年3月までの半年間、シオノギ創薬イノベーションコンペ『FINDS』のうち「萌芽型のテーマ」につき、アカデミアやバイオベンチャー等の研究機関に所属する研究者の方々から共同研究の提案を受け付けました。世界中で多数の患者が病気と闘っている一方、治療薬を創製するには、自社の強みと外部の強みをマッチングさせ、単独では実施できないような革新的な研究を遂行する必要があるという考えから、シオノギ製薬では積極的なオープンイノベーションの実施に取り組んでいます。FINDSは、そうした新しい創薬プログラムの開始や社内研究課題の解決などに結びつき、現在ではシオノギ製薬のオープンイノベーション活動の非常に重要な部分を担っております。[5]ファイザー株式会社ファイザー株式会社では、革新的な医薬品やワクチンをいち早く患者に提供するべく、最先端のサイエンスやテクノロジーの応用について、オープンイノベーションへの参画を通じて、学術研究者やバイオテクノロジー企業とのパートナーシップ構築に積極的に取り組んでいます。世界中のアカデミア、バイオベンチャー、製薬会社で見出されている斬新なサイエンスに視野を広げ、将来の新しい創薬研究開発を推進しています。[6]まとめさて、今回は製薬会社がオープンイノベーションを行う背景と、実際に参画している企業事例について紹介しました。製薬会社が行うオープンイノベーションは、これまで新薬開発に特化したものがメインとなっていました。しかし、最近では製薬業界ではない異業種とのコラボレーションにより、新たなアイデアを募る形が多くなっています。今後、製薬会社はますますオープンイノベーションを採用していき、異業種とのコラボレーションを通じて、革新的な製品を生み出していくことでしょう。引用 医療・ヘルスケアにおける新潮流━オープン・イノベーション、中分子医薬品、予防医学 Vol.4 医薬品業界における 2010 年問題と展望 大塚製薬のオープンイノベーション |大塚製薬 a-cubeについて|アステラス製薬オープンイノベーション公募サイトa-cub シオノギ製薬オープンイノベーション公募情報 FINDS ファイザー株式会社 – 医薬開発 – オープンイノベーション参考資料https://scienceshift.jp/new-industries-and-biotechnology-04/