そして仮説思考とは、さまざまな可能性が考えられる段階で、ある現象を合理的に説明するために最も確からしい仮の答え(仮説)を最初に立て、その仮説を肯定する情報を集めながら問題の全体像や結論を考える思考法です。
この仮説思考は、不確実性が高くスピードが求められる新規事業の担当者や経営コンサルタントに必須のスキルと言われていますが、実は職種に関わらず全てのビジネスパーソンにとって最も大切なスキルの1つと言っても過言ではありません。
それでは一体どのようなメリットがあるのでしょうか。
我々ビジネスパーソンは常に問題解決を求められます。
「営業成績が悪い」「社内の生産性が低い」「競合他社との競争に負けている」など日々問題がのしかかります。
これらの問題を解決するには問題の真因を明らかにし解決策を立てる必要がありますが、解決策を検討する際にやってしまいがちなのが、考え得るさまざまな局面から情報収集や調査、分析を行ない、その結果をベースに結論を組み立てることです。
網羅的に検討することは、新たな問題発見に繋がることももちろんありますが、無駄な情報収集、分析業務が発生してしまう可能性が高く効率が良いとは言えません。
一方、仮説思考では仮説を最初に立て、その仮説を検証するために必要な情報収集や分析(証拠集め)をすれば良いので、無駄がなく非常に効率が良くなります。
さまざまな可能性が考えられる段階では、間違った仮説を立ててしまうのではないかと不安に思う方もいるかもしれませんが、その場合には証拠集めを始めた際に仮説を肯定する情報がなかなか集まりません。
すぐに間違いに気づくため余裕を持って軌道修正、仮説の立て直しができます。
また、間違った仮説を繰り返し立ててしまった場合でも、網羅的に検討するより問題解決のスピードは速くなる可能性は高いです。
例として全体で20の情報収集の観点があったとして、その20の観点を全て調べ切る前に答えに辿り着ければ、網羅的に検討するよりも速いと言えます。
最初は誤った仮説を立ててしまうこともあるかもしれませんが、経験を積むことで筋の良い仮説が立てられるようになります。
仮説思考力の鍛え方は後ほど後述します。
問題解決と同様に我々ビジネスパーソンは常に意思決定が求められます。
会社の社長や部長、事業リーダーなどの役職に関わらず、担当者でも必ず意思決定をしなければ仕事は進みません。
その意思決定の検討材料となるのが情報です。
しかし、情報が多ければ多いほど良い意思決定ができるとは限りません。
情報が多いほど選択肢も多くなり意思決定は遅くなります。
意思決定に使える時間には限りがあるため、完璧な答えが出るまで意思決定を先送りすることもできません。
ここで必要な情報は選択肢を増やしてしまう情報ではなく、今ある選択肢を減らしてくれる情報です。インターネットやスマートフォンが普及し、今や誰もが大量の情報にアクセスできるようになりましたが、情報の多い現代で重要なことは情報を集めることよりもむしろ捨てることです。
仮説思考によってあらかじめ選択肢を絞ることで、闇雲に情報を収集するのではなく、その仮説に関連した限られた情報だけを集め、さらに絞り込んでいくことで、意思決定も迅速にできるようになるのです。
変化のスピードが早い現代において、経験のある仕事よりも初めての仕事に向き合う機会が増えてきました。
経験がある仕事をする際は、全容を知っているためスムーズに仕事を進めることができますが、初めての仕事は全容が分からず、手探りで業務を進めることになります。
当然ですが時間は有限のため、網羅的な思考や積み上げ型の思考で進めてしまうと、期限の終盤になってようやく仕事の全容が見えてくるので、重要点を深く掘り下げたり、進め方を間違っていた場合に軌道修正しようとしても時間切れになってしまいます。
ここでも仮説思考が有効です。
仮説を立て、その仮説において重要な論点を深掘りすることで、アウトプットの質を高めることができます。
また、その仮説が正しいという証拠集めを同時平行で進めることで必要に応じて軌道修正しながら仕事を進めることができ、全容や結論が想像できているとスケジュールも立てやすいため、時間切れになることも防げます。
全容が見えていない初めての仕事や不確実性が高い仕事と向き合う際に、大局観を持つことで時間あたりの仕事の質を高めることができるのです。
ここまで紹介した3点のメリットを一言でまとめると「生産性の劇的な向上」です。
働き方改革などに代表して生産性向上の必要性が叫ばれていますが、ビジネスパーソンにとって生産性向上は最重要課題であり、生産性を劇的に向上させる仮説思考はビジネスパーソンにとって最も大切なスキルと言えるでしょう。
それでは仮説思考力を高めるためにはどうすればよいのでしょうか。
筋の良い仮説を立てるスピードが速いほど、問題解決や意思決定のスピードも速まり生産性は劇的に向上します。
筋のよい仮説を立てる力(仮説思考力)は生まれ持った才能で決まるのではなく、仮説を立て成功と失敗を繰り返し経験を積むことで高まります。
どんなに優秀な人でも最初から完璧な仮説思考ができる人はいません。
今後どのようなことが起こりそうかを想像し、答え合わせを繰り返すことで仮説思考力が鍛えられるのです。
重要なポイントは、自分の仮説が一定期間で実際にどうなったのか、要因も含め答え合わせできる条件が整っていることです。
また、確証バイアスを意識することも大切です。仮説を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め反証する情報を蔑ろにしてしまわないよう注意しましょう。
仕事での実践が一番ではありますが、いきなり実践するのは怖いということであれば、仕事以外でのトレーニングも可能です。
例として具体的なトレーニング方法をいくつかご紹介します。
「タピオカミルクティー」は現在の流行りと言えると思いますが、この流行はいつまで続くのか?定番として定着するのか?廃れるならいつ頃か?などをその背景と合わせて仮説を立て、その後の流行の推移を追いかけ答え合わせをすることで、自分が立てた仮説が正しかったか確かめることができます。
その際は自分の仮説と異なっていたポイントを重点的に確認し、次回に活かしましょう。
日常業務で上司に意思決定を求めるシーンは多いと思いますが、その意思決定の結果を予測することもトレーニングになります。
例えば新しい取引先を開拓する施策を検討する際に、A案、B案、C案をあなたから提案したとします。
上司がどの案を選択するのか仮説を立ててみるのです。
人の意思決定は複合的要因から成り立っています。
単純に「A案」という答えだけを予測するのではなく、達成したい目的・目標などのゴール、各案のメリット・デメリット、上司の立場や性格など、さまざまな角度とその関係性なども合わせて考えてみましょう。
株価の予測でトレーニングするのも面白いかもしれません。
株価はよく「人気投票」と例えられますが、人気が集まるのには必ず理由があります。
大きな理由1つで株価に影響を及ぼす場合もあれば、小さな理由が複合的に重なって株価に現れる場合もあります。
特定の株を決め、その株価が一定期間後に上がっているのか、下がっているのか仮説を立ててみましょう。
ポイントは1ヶ月や3ヶ月など、ある程度長期間の株価を予測することです。
毎日の株価の上がり下がりにも理由はありますが、機関投資家やデイトレーダーによる突発的な売買の影響もあり定性的に答え合わせをすることが難しいためです。
仮説立てのトレーニングをするにあたり、過去の出来事を題材にする方法もあります。
例えば百貨店の「そごう」や全自動衣類折りたたみ機を開発し話題となっていた「セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ」が破綻してしまったのは何故か、「半沢直樹」がドラマ史に残る高視聴率を獲得できたのは何故かなど、既に答えが分かっており、その背景も十分に分析、考察されているものであれば何でも題材になります。自分の趣味の分野を題材にすると、楽しみながら仮説思考力を鍛えられるので、とてもオススメです。
いかがでしたでしょうか?
仮説思考力を高めることで、仕事の生産性を劇的に高めることができます。
これは全てのビジネスパーソンに求められるスキルです。
仮説思考力は日常の出来事を題材にしたトレーニングで鍛えることができますので、コンサルタントや新規事業の担当者に関わらず、実践してみてはいかがでしょうか。
この記事が皆さんの生産性向上のお役に立てば幸いです。