そこで弊社は、DXについて、各業界をリードする企業がどのような取り組みを行っているのかを取材し、未来へ向けての考察として読者にお届けする。
本企画では、DXの最前線に立つゲストとして、AI、FinTech、ブロックチェーンなどの先進技術の開発を行うレヴィアス株式会社代表取締役の田中慶子氏を招き、様々な領域でトップを走る企業の代表者様と今後のデジタル化社会について語り合う。
今回は、「誰もが起業できる世界を創りたい!」というビジョンのもと株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームである「FUNDINNO(ファンディーノ)」を運営する株式会社日本クラウドキャピタル代表取締役COOの大浦 学氏とCMOの向井純太郎氏との対談を実現。
既存の金融市場に新たな流れを生み出すサービスを提供している両社が、今後どのように社会にインパクトを与えていこうと考えているのかを伺った。
記者:
本日はお集まりいただきありがとうございます。レヴィアス株式会社様と株式会社日本クラウドキャピタル様は、両社ともにより良い社会インフラを構築すべく、証券の流動化においてDXを活用しようと目指されていると思います。是非、お互いの問題意識やビジョンなどお伺いできればと考えています。ではまず、レヴィアス様から事業内容のご説明をお願いできますでしょうか。
レヴィアス 田中代表:
よろしくお願いします。私たちは紙で管理されていた資産、契約をブロックチェーンやAIで今までよりも扱いやすくするということをテーマに掲げ、「J-STO」というプロジェクト名で、現行の日本法の枠組みの下で、金融事業者、法律事務所、テクノロジー事業者その他の専門家とも協働してデジタル化を進めています。今後もたくさんの協力者の方と共にデジタル化を実社会に導入していこうと考えています。
弊社の取り組みについてはこちらのYou Tubeを御覧いただければと思います。
記者:ありがとうございます。では続いて、日本クラウドキャピタル様のご紹介をお願いします。
日本クラウドキャピタル 大浦代表:
弊社は「誰もが起業できる世界を創りたい!」「フェアに挑戦できる未来を創る」というビジョンのもと立ち上げました。ITやインターネットが発達しても金融市場は未だに閉鎖的で、投資に関しても少人数で決定がなされます。そうするとネットワークがない場合や、地方で選択肢がない場合にはどうしてもベンチャー企業が挑戦しにくくなります。よって、ITやインターネットの技術を使った集合知の中で資金調達、投資をできるようにしたいという世界観が根幹にあります。その手段の一つとして株式投資型クラウドファンディングの「FUNDINNO(ファンディーノ)」を立ち上げました。
1つの問題意識として、ITが発達して同じようなビジネスモデルが世界同時的に出てくる中で最初の資金調達が重要になります。同じビジネスモデルでもアメリカのシリコンバレーから始まるのと、日本から始まるのとを比較するとやはり成長速度が違う。こちらの表はベンチャー出資額を日米中で比較したものです。
日本の年間のベンチャー企業への出資総額は年々増額傾向にあるとはいえ、アメリカや中国に比べると規模がとても小さいです。今は世界の時価総額ランキングのトップ50にトヨタが1社入っている程度の状況ですが、30年前はトップ50のなかの3割、4割は日本企業でした。
もう1点は、レヴィアス社様との共通の問題意識だと思うのですが、証券取引所の課題です。以下の図を御覧ください。
右側がアメリカで左が日本です。右側のアメリカを見ると一番上にあるのはNASDAQで、その下にステップアップ市場という売買市場が沢山あります。その中からコンプライアンス、ガバナンスがしっかりした会社が上に上がれる。つまり、アメリカには会社のフィルタリング機能があり、そこで選別された会社だけがナスダック等に上がれます。中国もアメリカと同様のピラミッド構造になっています。逆に日本は東証一部の上場数が一番多く、逆三角形になっています。日本にもステップアップ市場があるにはあるのですが、数十社しかなく、実質フィルタリングが機能していません。
ベンチャー・スタートアップ企業がIPOを考えても10年ほど時間がかかるため、その期間、株式が塩漬け状態だと投資家にとって投資するハードルも高くなります。10年のうちに売れるタイミングを作らないとベンチャー企業への出資は増えません。その解決策として、家計から非上場企業に直接お金が流れる仕組みを作るのが、株式投資型クラウドファンディングの「FUNDINNO」です。
私たちは第一種少額電子募集取扱業者(関東財務局長(金商)第2957号)の登録承認を持って業務を行っています。3年以上前にローンチして、調達額は累計で30億円を突破、登録されている投資家数は約2.5万人、資金調達時間の最短記録は1分54秒です。
また、昨年「FUNDOOR」というサービスもローンチしました。
「FUNDOOR」は、資金調達の前の一定のプロセスを無料で簡単に行えるというものです。ベンチャー企業は資金調達をするときに、事業計画や資本政策、投資契約という煩雑な準備をしなければなりません。その中でも事業計画は一番大変です。投資家として様々な事業計画を見てきて、ある程度テンプレート化されていることに気がついたので、それらの知見を盛り込んで作りました。
今は経産省、中小企業庁さんと連携してエンジェル税制の活用を推進しています。エンジェル税制は、会社側も投資家側も手続きが煩雑で申請が難しかったので、弊社の管理画面上から申請書類がダウンロード出来るようにしました。2018年度で見ると、全国のエンジェル税制申請者数の68%が弊社経由になっています。今年の4月からはエンジェル税制の改正があり、適用可能となる企業が拡大します。また、今までエンジェル税制の承認機関が各都道府県だったのですが、5月からは弊社が民間としては初のエンジェル税制の承認機関になる予定です。
その上で、弊社がまだ解決できていないのはエグジット(出口戦略)の問題です。そこで、株式の売却機会を作るために、未上場株の相対取引市場を作ろうと取り組んでいます。今まではエグジットとしてIPOかM&Aが主流でしたが、こうした限られた流動性の課題を解決する技術として、ブロックチェーンや株価算定が重要だと考えています。
加えて、これからは株主総会の電子化を進めたいと思っています。実は、株主名簿と言われているものは登記情報ではなくて、会社がエクセルなどで名簿を作って、それに会社のハンコを押しているだけのものです。特に譲渡制限がついている株の場合は、株主総会・取締役会の承認を経て株の移転が行われる、かつ、株主総会、取締役会のやり取りも紙で行われている世界なので、これを電子化しないと流動化が進みません。そこで、電子的な決議に基づいて株の移転も電子化することによって売買ができるようになると、今まで流動性の少なかった非上場株に流動性を高められるのではと考えています。
記者:
ありがとうございます。日本クラウドキャピタル様とレヴィアス様の取り組みは、入り口は違えど同じ課題意識をお持ちのものだと思いました。レヴィアス様も、株式の流動化というテーマに取り組んでおられますよね。
レヴィアス 田中代表:
私も太陽光の投資の際にエンジェル税制を使いましたが、申請がとても大変で投げ出したくなったことがあります。エンジェル税制の申請を専門でやっている税理士法人も検討したのですが、申請に数十万円ほど必要でした。そうするとエンジェル税制を受けても結局お金がかかってしまい、利用する人も増えません。手続きを電子化して簡易に、正確な対応ができるというのは、今まで投資に参入しなかった層の本格的な参入が起きるのではと期待できます。加えて、エンジェル税制を受ける方は年収が高いはずなので、その意味ではとても時代にマッチしていると感じました。
レヴィアス 小町ディレクター:
日本クラウドキャピタル様のおっしゃっていることは非常によくわかります。実は私たちも似たようなイメージを持っていて、弊社では昨年の取締役会で弊社の全株式に関する情報をブロックチェーン技術を活用したデジタル方式で管理することを決議しました。弊社株主はインターネットを通じて接続することができる弊社が開発したプラットフォーム上で、自己の保有する株式に関する情報を随時閲覧することが可能となる他、取締役会に対する株式の譲渡承認請求も、プラットフォームを通じて行われます。
記者:
日本クラウドキャピタル様はどのように株主総会を電子化されたのでしょうか。
日本クラウドキャピタル 大浦代表:
株主総会を電子化する上で、会社法が重要になります。紙で欲しいという人がいたら紙で送らなくてはいけませんし、株主総会に来たい人がいたら、会場を設置して開催しなくてはいけません。そこで弊社は、投資時点で契約をして株主総会の電子的な招集通知と、電子的な議決権行使ができるようにしています。
レヴィアス 田中代表:
素晴らしいですね。2年後3年後は社会的にもそのようになっていくと思います。
日本クラウドキャピタル 向井 CMO:
コロナウイルスの影響もあり、株主総会の電子化は非常に進んでいますね。
記者:
先程レヴィアス様には日本クラウドキャピタル様への印象を語っていただいたのですが、日本クラウドキャピタル様はレヴィアス様に対してどの様なご感想をお持ちでしょうか。問題意識や方向性には共通点があると感じました。
日本クラウドキャピタル 大浦代表:
そうですね、アプローチが違うだけで、僕らの目指す世界は同じだと思います。ブロックチェーンを活用したJ-STOも必要ですし、或いはインターネットを使った金融であればどのような形でも良いと思います。
記者:
両社のアプローチは違うとはいえ、同じ領域に進んで、最後に社会もついてくると感じました。日本クラウドキャピタル様としては、株主総会のオンライン化を含めて近い未来にどのように証券などのデジタル化が進むとお考えですか。また、そこで御社はどのような役割を担いたいと考えておられますか。
日本クラウドキャピタル 大浦代表:
会社自体に変化はなく、手続きや紙という非効率な部分の電子化が進むと思っています。例えば株がなくなるということではなく、完全に電子化されて、実質セキュリティトークンになっていくという世界を実現することが出来ると思います。歴史的に培われた概念は変わらず、手続きや紙のフローが今の時代に合わせた形に変わるのではないでしょうか。その世界になると手続きが簡略化して流動性を高めやすくなり、株の売買も、みなし有価証券の売買も、さらには会社の売買も簡単にできる世界になると思います。
記者:
これに対してレヴィアス様はセキュリティトークンという形態をソリューションとして提示されています。社会のインフラになるというビジョンのもとで動いていると思うのですが、レヴィアス様は社会がどのようにデジタル化されていくとお考えですか。
レヴィアス 小町ディレクター:
現在、日本国内でのセキュリティトークンは金融商品取引法の改正に伴い、電子記録移転権利という法的性質で解釈されています。ですが、この電子記録移転権利が現実社会に適用されて効果的に活用される為には、まだまだ持続的なアップデートと多くのユースケースが必要だと考えています。
弊社では、オープンイノベーションで今できることから順次社会に実装していくことが重要だと思っています。それは、これまで一般的に行われていた文書による契約書やその他のアナログで管理されていた資産の権利に関する情報管理を電子化していき、電子記録移転権利の枠組みだけに囚われずに、広義な意味でのセキュリティトークンによるデータ流通が実際の社会で活用されるモデルケースになると考えています。
記者:
両社は、日本での証券や株式のデジタル化において最前線を走っておられますが、本当にデジタル化されるのは何年後になるとお考えですか。
レヴィアス 田中代表:
海外ではセキュリティトークンの流れが日増しに早くなっていますが、日本国内では、既得権益や文化的背景があってまだ少し時間がかかると思っています。ですが、今はコロナウイルスの影響もあり、オンライン診療やクラウドサインなど、デジタル化による変化が強制的に早まっているという側面もありますので、証券の領域でも5年後には大きく変わっていることを期待しています。
記者:
なるほど。確かにコロナウイルスの影響でデジタル化は加速している面がありますね。日本クラウドキャピタル様はいかがですか?
日本クラウドキャピタル 大浦代表:
非上場株やベンチャー企業の目線でいくと、年内でデジタル化は可能だと思います。弊社は非上場会社の株式の移転を行い、名簿管理人にもなります。そして、管理コストを低くして、調達から売買、エグジットまで可能にしていきます。一方で、上場会社は上場利権などが強く絡んでいて、管理コストを下げることも難しいので、当面は難しいかと思います。
レヴィアス 田中代表:
これから起業する経営者さんも若い人が多くなります。もっとデジタル化が浸透していくと思いますし、ベンチャー起業さんが元気になってほしいとも思います。資金調達で苦しかったり、どうしていいかわからないために世に出てこられなかった企業が沢山あります。そこを後押しできれば日本経済も良くなると考えています。
記者:では最後に一言ずつ、これからやっていきたいことやビジョンをお聞かせください。
日本クラウドキャピタル 向井 CMO:
我々が目指す世界は「フェアに挑戦できる未来を創る」です。インターネット上で資金調達をして、インターネット上で投資して、その株式をIPOやM&Aを待たずとも途中で売却できる、そうすると、ポートフォリオを入れ替えて別の会社を応援しようという世界観になり、お金が回りだします。このような世界をいかに早く作っていくかというところが重要です。ベンチャー企業はステージごとに株価が変わるので、任意のタイミングで売れるようにするだけで投資環境が変わってきます。私たちは「FUNDINNO」と「FUNDOOR」で資金調達からエグジットまで、全てを完結させたサービスとして提供したいと考えています。
また、現在ファンディーノに登録している投資家数は約2.5万人でして、まだ仮想通貨投資よりもマイナーなのですが、エンジェル投資やベンチャー・スタートアップの投資を民主化するためにも、100万口座ほどに広めていきたいです。
日本クラウドキャピタル 大浦代表:
スタートアップマーケットを規制緩和とテクノロジーでオープン化していきたいですね。
レヴィアス 田中代表:
私も大浦社長と同じで、1,2年でアナログなものがデジタル化すると思います。企業としても勝ち残るには停滞するのではなく、デジタルに挑戦していくことで価値は上がっていきます。J-STOは自社で様々な機能を実装して、開発もα版が完了しました。今年はβ版に移行する上で、金商業者様との提携も増やしてユースケースを作っていきます。加えてエンタープライズ向けや、金商業者様以外との前例も作っていきます。今後セカンダリー市場が出来た時に、日本経済は変わると思います。日本はこれから人口が減って、でも利権が根強く残る中で、経済をどうすれば大きくしていけるのかと考えると、今動いていない金融市場が動くということが大きなポイントです。弊社のプロジェクトは何年も研究を繰り返し苦労した時代がありましたので、これを世間に出して、私達が作ったというよりも、様々な金商業者様と一緒にマーケットを盛り上げていきたいと考えています。
いかがだっただろうか。日本クラウドキャピタル社はベンチャー企業の資金調達をサポートし、流動性の課題を改善するための包括的な取り組みを行っている。大浦氏は、年内にベンチャー・スタートアップ企業の株式のデジタル化は可能だと述べており、DXが急速に進んでいることが分かった。
またレヴィアス社の田中氏が語っていたように、DXで資金調達や手続きに苦しんできた若い世代の経営者が元気づけられることは間違いない。ひいては日本経済全体が活発化していくことにつながるだろう。
レヴィアス社の「J-STO」と日本クラウドキャピタル社の「株式投資型クラウドファンディング」、両社のアプローチは違えど、従来の金融の課題を解決し、より日本経済を活発にしていきたいという方向性を向いていると感じた。これからも両社の取組みを注視していきたい。
インタビュアー:ルンドクヴィスト・ダン
執筆:塚田愼一