1. TOP>
  2. 社長・代表 取材・インタビュー>
  3. 対談
  4. アフターコロナで住宅産業のDXはどのように進むのか

アフターコロナで住宅産業のDXはどのように進むのか / 住宅産業の未来を語るレヴィアス株式会社 代表取締役 田中慶子
株式会社エプコ 代表取締役グループCEO 岩崎辰之

  • feedy

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞いたことがあるだろうか。全てのモノがインターネットに繋がり、お金はデジタルに変化し、人工知能が社会インフラを支える、そんなデジタル化された時代が到来することを予期する概念だ。

全てのものがデジタル化されるという潮流は、年々強くなっている。VentureTimesは、様々なベンチャー企業の代表者を取材している中で、このDXの波を強く感じてきた。どの企業もDXを念頭におき、近い未来に対してどのような事業の在り方があるのか、模索を続けている。
そこで弊社は、DXについて、各業界をリードする企業がどのような取り組みを行っているのかを取材し、未来へ向けての考察として読者にお届けする。

本企画では、DXの最前線に立つゲストとして、AI、FinTech、ブロックチェーンなどの先進技術の開発を行うレヴィアス株式会社代表取締役の田中慶子氏を招き、様々な領域でトップを走る企業の代表者様と今後のデジタル化社会について語り合う。

今回は住宅産業でいち早くDXを推進しながらブロックチェーン技術を用いた特許を複数取得し、コロナ以降のBCP(事業継続計画)対策にDXを組み入れる、株式会社エプコ 代表取締役グループCEO 岩崎 辰之氏との対談を実現。

住宅産業のDXの課題、セキュリティトークンを電力の譲渡にどのように使用するかという、証券以外の活用方法について議論を行った。

レヴィアス株式会社:AIとブロックチェーンの受託開発を行う

レヴィアス 田中代表:
私たちはレヴィアス株式会社と申しまして、2018年に設立しました。主にブロックチェーンやAIの受託開発を行いながら、自社でセキュリティトークンのプラットフォームを開発しています。今はこのプラットフォームを金融商品取引業者様などに安心して使って頂けるように、コンサルティングを含めた導入のご提案をさせていただいております。

<以下YouTubeより>

主にフィンテック領域で資産の流動化を行っています。今まで紙ベースで様々な承認手続きをしていたものを、ブロックチェーンやAIのテクノロジーで自動化していきながら、より簡潔にすることで流動性の促進に繋げたいと思っています。その中でテクノロジーだけでなく、データガバナンスも大事であり、現実社会とインターネット社会が融合し進化することを目指しています。

記者:
ありがとうございます。それでは続いて、エプコ様のご紹介をお願いします。

株式会社エプコ:住宅産業のDX化を力強く促進

エプコ 岩崎代表:

ありがとうございます。株式会社エプコは1990年に設立され、昨年東証1部に上場しました。東京の本社を拠点に、沖縄、中国の深圳、吉林などにもオフィスを構えています。主に住宅分野で以下の3つの領域でビジネスを展開しています。

  1. D-TECH事業(デザインテック事業)【新築分野】
  2. H-M事業(ハウスマネジメント事業)【既築分野】
  3. E-Saving事業(省エネリフォーム事業)【リフォーム分野】

D-TECH事業【新築分野】

住宅の『新築分野』では住宅そのものの設計よりも、水回りの配管や、電気の配線、太陽光パネルといった設備関連の設計を1年間で10万戸請け負っています。これは新築住宅の割合からすると約14%のシェアですので、100件新しい家が建つと14件は弊社が担当している計算になります。

今までは職人さんが現場で工事をするのが一般的でしたが、より簡易に工事ができる「設備工事の工業化」と呼んでいるサービスを展開しています。例えば、配管などをプラモデルのようにパーツで作り、事業者さんも説明書通りに取り付ければ工事が完成するというものです。資材の加工は弊社が直接提供しているわけではなく、提携している製品メーカー様に担っていただいています。

H-M事業【既築分野】

『既築分野』については住居をお引き渡しした後のお客様に24時間365日アフターメンテナンスを受け付け、修理サービスを提供しています。1年間に55万件ほど担当しており、様々なメンテナンス情報が蓄積されるので、そのデータを分析して住宅会社や製品メーカーに活用するサービスも展開しています。

E-Saving事業【リフォーム分野】

省エネ事業は東京電力エナジーパートナー株式会社との合弁会社を設立しました。東京電力エナジーパートナー株式会社の電力契約2000万世帯に対して省エネサービスを提供しています。
具体的には、畜エネ(EVや蓄電池など)、創エネ(太陽光発電など)に関する設備を提供する工事会社です。

DX化を促進するBIM(Building Information Modeling)

記者:
ありがとうございます。とても先進的な取り組みをされていますね。
エプコ様の公式ウェブサイトを拝見させていただくと、トップページに「DX」と書いてあり、それほど業界の中でも「DX」の方向性を念頭に置いておられるのだと感じました。岩崎代表はDXについてどのようなお考えをお持ちでしょうか。

エプコ 岩崎代表:
前提としましては、我々が所属している住宅産業はデジタル化が遅れている業界です。例えば、建築の設計図は二次元で日本語の表記のみです。また住宅には多くの業種、会社が携わるにも関わらず、情報の共有が不十分です。最近は少子高齢化の影響で現場の作業員も外国人の労働者が増えています。その意味では日本語だけで表記された二次元平面図を読み込んで、工事が完璧にできるかはわかりません。ここをデジタル化、つまり図面を三次元化し、図面から作業工程を動画化して、他の言語に対応できるようにします。

記者:
すごい取り組みですね。図面の三次元化というのはもう現場で導入されているのでしょうか。

エプコ 岩崎代表:
はい、これは新築住宅を三次元化したモデルです。資材情報も表示され、工事の工程まで動画で再現されています。

例えば住宅基礎工事のコンクリを打つときに「後から配管が貫通できるようなパーツを入れてください」という指示が動画で出ます。配管は全てパーツ化されているので、そのまま組み合わせていただければ完成します。

住宅の基礎工事の手順もボルト一本一本まで動画で表されているので施工の品質が担保できます。

記者:
住宅の建築のように多くの人が携わる現場では、詳しく理解を助ける技術が必須ですね。

住宅産業のデジタル化を阻む壁

記者:
ここまでリアルに図面を三次元化している企業様は少ないと思うのですが、レヴィアス様はどのように見られますか。

レヴィアス 田中代表:
住宅業界は新しいものが参入しにくい業界だと思っていたので、非常に先進的な取り組みがおこなわれていることに驚きました。御社と同じレベルでデジタル化が進んでいる企業様は他にもあるのでしょうか。

エプコ 岩崎代表:
住宅産業では弊社がかなり進んでいると思います。ただ問題は既存の産業全体が二次元の設計図をベースにしていることです。例えば、日本の金融機関は基盤がしっかりしすぎているので、フィンテックなどの新しい技術を導入する際に障壁になる現状があると思います。住宅産業も同様に、二次元の設計システムをベースに様々なサードパーティの仕組みを作り込んできているため、新しく三次元にしても業界全体にすぐ浸透するわけではない、という課題があります。

さらに、三次元で情報を作り込んでいくことに時間と工数がものすごくかかるわけです。

レヴィアス 田中代表:
なるほど、先程の三次元の工程表は時間がかかりそうです。

エプコ 岩崎代表:
はい。現状は三次元の設計図に多くの時間とコストがかかります。今後は二次元の設計システムの作業時間の2割増程までで、付加価値の高い三次元情報を作り出していきたいと考えています。

レヴィアス 田中代表:
これを短時間で工数をかけずに作れるようになると住宅産業が大きく変わりますね。また類似の競合他社との差別化にもつながります。外国人労働者に対しても正確に指示が出せる、言語対応もできるということで、労働力不足の解消や作業の効率アップがはかれると思いました。

ブロックチェーン技術に関する特許を複数取得

記者:
レヴィアス様はブロックチェーン技術を活用した「J-STO」というソリューションを提供されています。エプコ様もブロックチェーン技術を活用した特許をお持ちだと伺いました。

エプコ 岩崎代表:
はい。私たちは電力に関する特許を複数持っています。例えば、自宅で余った電気を売らずに情報トークンとして自分の電気自動車に充電するという特許があります。
まず、太陽光パネルがついている家があると仮定します。余った電気はFIT(フィット)という電力買取制度で売れますが、その電気を売らずに自分の電気自動車に充電する方法もあります。自宅に電気自動車を置いていれば常時余剰電力を充電できるのですが、スーパーに車で買い物にいった場合は、家に車がないので余剰電力の充電ができません。そこで自宅で余った電気を売るのではなく、セキュリティトークンという概念を活用して家から離れた自分の車に充電できるというシステムの特許を持っています。

これは逆も可能で、電気自動車に貯まっている電力を放電して他の人に使っていただくこともできます。これからは電気メーターを介してやりとりをする時代ではないので、電力量を情報化して、情報トークンを使ったやりとりになると考えて特許を取得しています。エネルギー情報、電力情報を活用したDX或いはトークンとしての発想で様々な仕組みを作り出していけるのではと思っています。

セキュリティトークンの可能性・今後の普及に向けての課題

記者:
セキュリティトークンは証券の流動化以外にも電力情報など幅広い使い道があるのですね。レヴィアス様はセキュリティトークンの第一人者として、どのようにお考えですか。

レヴィアス 小町ディレクター:
何かしらの資産、契約に用いられている書類、証書などの紙の権利をデータ化して、それを譲渡可能にするシステムがセキュリティトークンであると言えます。ただし用途に応じてセキュリティトークンは制限されています。必要な要件が変化することで、電力の取引など様々な業務フローを簡便に行えることが大きなメリットであり、そこに様々なビジネスチャンスや収益モデルが生まれるのではないかと思っています。

記者:
セキュリティトークンのニーズがあると分かっていても、社会での導入には時間がかかると思います。レヴィアス様はセキュリティトークンを普及させるためのポイントはどのようなところにあるとお考えですか。

レヴィアス 小町ディレクター:
セキュリティトークンの領域において、経済的発展と社会的価値の創出をセットにするのがグローバル社会で重要です。現実社会に実装された時に誰のためになるのかを考えないと、仮想通貨のように投機の側面だけが強調されてしまうわけです。社会のためになり、応援してもらえる形でないと技術がいかに優れていても実用化には至りません。日本政府がSociety5.0で提唱する「DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)」のように、信頼性のあるデータ移行が最も価値があるというのが弊社の1つの答えです。

レヴィアス 田中代表:
あとは時間の問題だと思います。先ほども申し上げた通り技術が社会に浸透するまでには時間がかかるものです。今はサービスを社会に導入する準備段階で、一度浸透すれば多くの人々が使い始めると思います。

記者:
なるほど、ありがとうございます。日本にはセキュリティトークン協会などの団体がいくつかありますが、ほとんどは証券の流動化がテーマになっていると思います。エプコさんのセキュリティトークンの特許は必ずしも証券ではない利用方法で、今後は垣根を超えたセキュリティトークンの形があるのではないかと感じます。

それでは最後に、両社様から一言ずつ今後のDX化の方向性において、どのような取り組みをしたいかという抱負をいただければと思います。まずエプコ様からお願いします。

最後に:アフターコロナではサービス価値+BCPの優位性が価値を持つ

エプコ 岩崎代表:
弊社は住宅産業の中で事業を展開しております。現在はコロナウイルスという問題があり、コロナ後には事業活動、働き方、これまでの価値が大きく変わると考えています。
エプコとしてはBCP(事業継続計画)対策を中心として進めたいと考えています。BCPに取り組むとデジタル化は避けては通れません。今までは1つのオフィスに集まって設計業務をしていましたが、今はテレワーク中心で設計業務を行っています。テレワークを円滑に進めるには、自宅でも設計しやすいような通信設備や情報機器、自動的な設計や検査が重要です。事業会社が提供するサービス価値+BCPの優位性、この両面が評価される時代だと思うので、そこに特化していきたいと考えています。

レヴィアス 田中代表:
弊社も今回のコロナウイルスによる影響でテレワークの体制を取りました。ほとんどの仕事に支障は起きておらず、基本的には自宅で業務を行えるということが明らかになりました。

今後の事業としては、セキュリティトークンのプラットフォーム開発を進めて、多くの企業様に弊社の技術を使っていただきたいと考えています。残念ながら日本の人口は減り、アメリカやインド等と比べてデジタル化も遅れている状況です。今まで人がやらなければならなかったことをデジタル化し簡素化することで、逆に人にしかできないことに専念できる社会にするのが良いと思います。

弊社はブロックチェーンやAIなどの技術を企業様にご提供しながら、日本経済を活性化していきたいと思っています。

記者まとめ

いかがだっただろうか。株式会社エプコは住宅産業のDXを推進するだけでなく、セキュリティトークンを活用した余剰電力の売買など非常に先進的な取り組みを行なっている。セキュリティトークンといえば金融領域に特化したものであるという印象が強いが、電力など様々な事柄に活用できるということが分かった。また、アフターコロナに向けてBCP(事業継続性)を重要視したデジタル化の促進(三次元設計書・バーチャル住宅展示場)も進められているのは、先進的な取り組みだと言えよう。
レヴィアス社もAIやブロックチェーン技術を用いた新たなセキュリティトークンプラットフォームの開発を行なっており、両社の取り組みは業種は違えども同じ方向性を向いていると感じた。今後の動向に注目したい。

インタビュアー:ルンドクヴィスト・ダン
執筆:塚田愼一