本日はよろしくお願いします。この対談では両社様のDXに関する取り組みを伺いたいと思います。まず株式会社マツモト様から事業内容のご紹介をお願いします。
マツモト 松本大輝常務:
よろしくお願いします。株式会社マツモトの常務取締役営業本部長 松本大輝と申します。弊社は昭和7年創業の80年を超える歴史がある印刷会社です。
主に卒業アルバムの制作を行なっており、売り上げの70%は卒業アルバム、残りの30%は印刷物やウェブ関連の事業です。
記者:
ありがとうございます。続きましてレヴィアス様からも、事業内容のご紹介をいただけますでしょうか。
レヴィアス 樋渡氏:
レヴィアス株式会社 経営管理本部取締役 樋渡智秀 と申します。弊社は2018年に設立したスタートアップ企業で、IT全般のシステム開発を承っております。現在はFinTech領域にフォーカスして「J-STO」というプラットフォームを独自開発しました。
「J-STO」は投資家が保有する金融資産の契約や財産権をデジタル上でブロックチェーン用いて信頼性のある形で可視化し、その二次流通を従来よりも迅速・簡便な流れにするプラットフォームです。
今までの郵送を含めた紙ベースのやり取りと比較してオンライン上で利便性を高めることが可能となります。すでに弊社の株主や、太陽光案件の投資家向けにアルファ版を公開しております。
また、今年の12月にクローズドベータ版がリリースされ、金融商品取引業者に導入される予定です。弊社はこれまで、太陽光のファンドや、弊社のストックオプション・株式などの投資契約や投資家の地位・権利をブロックチェーン上で信頼性のある形で当該プラットフォーム上でデジタル化し、さらには二次流通を実現化するなどの実績を積んでいます。
弊社投資家向けのアルファ版になりますが、弊社の「J-STO」について、以下の画像をご覧いただけますでしょうか。
「J-STO」にログインしますと、左側にティッカーシンボルがありまして、これが契約書とひもづいています。契約書はブロックチェーン上に記録されており、ティッカーシンボルをクリックするとファンド(匿名組合契約)等に出資したデータが閲覧できる仕組みとなっています。
尚、今年の12月のクローズドベータ版ではガラッとユーザーインターフェースが変わり、追加機能の実装と共に更に使いやすくなる予定です。
記者:
レヴィアス様の「J-STO」を使えば契約書等の印刷も郵送も不要ということですか。
レヴィアス 樋渡氏:
そうですね。オンライン上でやりとりが完結するようになります。
契約書以外にも、印刷という領域で考えますと、例えば卒業アルバムをオンライン上に作成し、ブロックチェーンと紐づければ、秘密鍵を持っている卒業生しかアルバムを閲覧することができなくすることもできます。
そしてその卒業アルバムは悪意のある第三者による改竄が難しくなります。
記者:
ありがとうございます。続きましてマツモト様はデジタル化にどのようなお考えをお持ちでしょうか。
マツモト 松本大輝常務:
今後世の中でデジタル化が進んでいくのは間違いないと思います。
若い世代はすでにデジタルが前提になっているので、その人たちが紙の卒業アルバムをもらって満足するとは限りません。卒業アルバムを紙で欲しいか、データで欲しいかを選択できるようになると思います。
また業界としてもデジタル化は進んでいます。例えばAIが自動的に卒業アルバムの写真のレイアウトを整えるなど、アルバムの製造工程が自動化されてきています。
記者:
印刷業界では製造工程でDXが進んでいるのですね。一方でレヴィアス様は金融領域のデジタル化を推進されておりますが、規制との兼ね合いが難しいと聞きます。
レヴィアス 樋渡氏:
そうですね。証券会社様の扱う主な金融資産である第一項有価証券をデジタル化する場合、法的には電子記録移転権利という扱いとなり、データがAさんからBさんに移ると、データの移行に伴って権利もそのまま移動します。
一方で私たちが扱うのは未上場株や、ファンドの持分といったみなし有価証券(第二項有価証券)と呼ばれるものです。みなし有価証券の権利の移動には金融商品取引業者が介入し、煩雑な紙のやり取りが行われて初めて資産が移転されます。
法律との兼ね合いがあるのでデジタル化が進みにくいですが、コロナの影響もあり少しずつデジタル化の波が金融業界でも浸透しているのでは?と勝手ながら感じています。
記者:
ありがとうございます。今仰ったコロナウイルスによる現状は多くの業界に影響を及ぼしています。マツモト様の業界でもコロナ禍の影響はありますか。
マツモト 松本大輝常務:
弊社のお客様は学校なので、運動会や遠足などの行事が中止になると写真が撮れず、アルバム制作自体が難しくなっています。
またアルバム以外にも、印刷物においてコロナの影響は出ています。具体的には新聞の折り込みちらしが減るなど、販促系の紙のツールは落ち込みを見せています。
以前から言われていることですが「情報として」の紙の価値は下がりつつあります。レヴィアス様が取り組まれているように契約や取引に必要な手続上の紙は無くなっていくでしょう。
一方でコロナ禍でも需要が増大している弊社のサービスもあります。それは「デジタル印刷」という取り組みです。
データを事前に用意して、必要な時に必要な量だけ受注生産で印刷するというサービスです。
企業は今までたくさんものを作って在庫を抱えていましたが、今ではコロナの影響で在庫コストの削減に向かっています。在庫を減らすために完全受注生産の流れになっており、その需要にマッチしたデジタル印刷は追い風を受けています。
例えば本も従来は倉庫に在庫を抱えていましたが、デジタル印刷を活用して受注生産にすれば在庫を抱える必要もありません。
記者:
紙は今後どのように形を変えていくと思われますか。
マツモト 松本大輝常務:
難しい質問ですね。少なくとも紙が完全になくなることはないでしょう。情報をプリントアウトする紙は減っていきますが、自分たちで作った紙のアルバムなどは残ると思います。
最近の若い方は紙のDMを受け取ると嬉しいというデータがあります。彼らはデジタルが中心でメールのニュースレターなどを受け取ったことはあっても、紙のDMを受け取ったことはありません。自分の好きなブランドから紙でおしゃれなDMが届くと、喜んで保管しておくといいます。
紙には紙の楽しさがあり、それは残っていくでしょう。
記者:
松本様は紙をデジタルにするだけでなく、デジタルのものを紙にするというサービスも展開されていくのですね。
マツモト 松本大輝常務:
そうですね。今までは紙メディアが当たり前にあって、それをどのようにデジタル化するかということが中心でした。
今は紙のものをデジタルにする作業と、デジタルのものを紙に落とし込むという作業の両方があります。
どちらも需要が出てきていて均衡していますが、これからはデジタルから紙にという流れが強くなると思っています。
やはり人間は実際に「もの」がないと満足できないのでしょう。
デジタル上で映像だけ見せられて満足するかというとそうではなくて、何か体験しないと満足できない。そのためデジタルから実際の「もの」に落とし込む流れは形を変えて発展するのではないかと思います。
記者:
DXという観点では、紙からデジタルになると考えがちですが、逆にデジタルから紙が求められる時代かもしれません。
レヴィアス様は金融において紙からデジタルにする取り組みをされているので、デジタルから紙になって欲しくない分野ですね。
レヴィアス 樋渡氏:
私個人として、デジタル化は選択肢を増やすツールという見方をしています。
歴史的に情報を出力する媒体は洞窟の壁画や石板から始まり、竹簡・木簡ときて、グーテンベルクの紙(活版印刷)が広まり、そして現代ではパーソナルコンピューターが登場しました。弊社はIT会社なので世の中を便利にしようと考えて、契約書等の紙からデジタル化への移行を促しています。
ただし写真などはデータだけでなく、紙にするときもあります。ストレージの1つとして紙があると思っているわけです。そのため今までは紙でしか保存できなかったものに加えて、今後はデジタルでも保存できる。
様々なテクノロジーを利活用して手段を増やし、多様性を高めていくことが大事だと思っています。
記者:
紙の使用はだんだんと減っていくと思いきや、デジタルから紙という流れが生まれつつあるのですね。
記者:
最後に今後の抱負を伺えますでしょうか。
レヴィアス 樋渡氏:
弊社が力を入れているブロックチェーンに加えて、AIの利活用を加速させていきたいと思っています。
内閣府がSociety5.0で提案しているように、デジタル化に伴ってAIを切り離すことはできません。そのため、弊社ではJ-STOにAIを取り入れて不正な動きを感知するシステムの導入試験をしています。最先端テクノロジーを使って皆様の生活を豊かにするという弊社の理念に則って業務を進めていきたいです。
記者:
ありがとうございます。マツモト様もお願いします。
マツモト 松本大輝常務:
これまで感じてきたことですが、日本の会社は業種で分断されています。
ITはIT、製造は製造と分かれてしまっているが故に融合のスピードが遅い。本当はもっと早くテクノロジーを融合させて新しい取り組みができるはずです。
今年はコロナウイルスの影響で業界が止まり、ある意味で自分たちの限界を感じた年になりました。このままでいいのか、何か新しい取り組みをしなくてはいけないのではないかと感じるきっかけだと思います。
だからこそ弊社は今後様々な業種の方とコラボレーションして、大きな動きを作っていきたいと考えています。
いかがだっただろうか。創業80年以上の歴史を誇る株式会社マツモトは卒業アルバムを中心に印刷物に関わる取り組みを行ってきた。そして印刷に最先端の技術を取り入れ、常に業界を牽引してきた経歴を持つ。
レヴィアス株式会社は従来紙ベースだった契約書などをデジタル化して流動性を持たせるJ-STOプラットフォームを開発中。すでにアルファ版がローンチされ、近いうちにベータ版も発表されるそうだ。金融業界のデジタル化がさらに促進され、紙での煩雑な手続きが削減されていくだろう。
レヴィアス社の取り組みのようにデジタル化が進むことで、紙が使用されなくなっていくと思われるかもしれない。しかし松本氏が言うには、デジタルネイティブの若い世代にとって紙が手元に届くことは新たな価値となりつつあるそうだ。紙が手触りを持っていることや、紙の卒業アルバムをみんなで作るといった体験の価値に再度注目が集まっている。
DXが紙にどのような影響を及ぼすのか、両社の今後の取り組みに注目したい。