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おもてなしの「コト消費」へ海外展開ハワイ出店のラーメンBarがアワード受賞 / 注目ベンチャーインタビュー後編株式会社一家ダイニングプロジェクト
代表取締役社長 武長太郎

  • feedy

設立5年目に廃業のピンチ 2人の新卒を見て再起を決意

同社は設立5年目の2002年に、武長氏が廃業を考えるほどの危機に瀕した。5店舗目を出店した時期で、5月から売上高が落ちはじめ、全店で前年同月比20%ダウンがつづいた。営業時間を午前5時まで延長し、徹底的なコストダウンをするなど窮余の策に出たところ、約30人在籍していた社員の半数が退職してしまう。

すでに融資枠一杯まで借り入れていたため、銀行も追加融資に応じてくれない。武長氏は「いろいろと悔んだり、辞めたい気持ちにとらわれたりしました」。その胸中を一変させたのは2人の新卒1期生だった。

「こだわりもん一家柏店」でひたむきに働く2人の姿が、武長氏に再起を促したのである。「私は採用面接で夢を語って2人に入社してもらいました。これからは2人の夢をかなえてあげるためにサポートすることが、私の任務ではないだろうかと考え直したのです」

運にも恵まれた。当時はメガバンクの再編期で、あるメガバンクが再編に伴う融資枠の調整によって、1億円を融資してくれたのだ。これで息を吹き返した同社は、ドミナント戦略を展開して地歩を固めていった。

店舗運営で目に付くのは高い会員比率である。同社はKPI(重要業績評価指標)に会員達成率を入れ、会員獲得に力を入れている。会員になっていただいたお客様には特典を用意し再来店に繋がる企画も多くあり、全店の会員比率は約70%に達している。会員比率の高い飲食店は、ほぼ例外なくQSC(品質、サービス、清潔さ)がすぐれているが、同社が志向しているのは「おもてなしで日本一の会社になること」(武長氏)である。

人財育成部に「チーフ・おもてなし・オフィサー」という役職を設け、01年「サーバー1グランプリ」で準優勝した奥田英里氏が就任。おもてなし水準向上の要件について、武長氏は「マニュアルによる接客サービスは思考停止を招きかねません。お客様の気持ちに寄り添うマインドが問われます」と強調する。

DDホールディングス松村氏曰く「強みを築いて、自分らしい経営を」

マインドの育成方法は多岐にわたっている。一例を挙げると、武長氏が講師となり、全社員を対象に経営理念についてワークを交えながら深く学ぶ「理念研修」、各店舗の成功事例や、営業での感動ストーリー、スタッフ同士への感謝の共有、社会人になり退職するアルバイトメンバーに向けての卒業式を行う「一家祭り」などがある。成果は、5つの評価基準(売上達成率、会員達成率、店舗MTG参加率、5S点、覆面調査得点)から各店の評価を行なって表彰する「感動店舗賞」などでフィードバックされている。

コストコントロールの指標はFLR(原画+人件費+家賃)比率である。こだわりもん一家(平均席数92席)は客単価3800円・平均月商817万円、屋台屋 博多劇場(同79席)は同2500円・738万円。この数年来、食材原価と人件費が上昇傾向にあるが、コストコントロールの基準としてFLR比率を70%以下と設定している。

おもてなしは訪日外国人観光客を吸収する有力なコンテンツになるが、同社はおもてなしを「コト消費」(武長氏)ととらえ、海外展開にも踏み出した。

15年3月にとんこつラーメンBar「GOLDEN PORK「(黄金の豚)」をホノルル市に出店。立地は「現地の方に支持される店」を志向して、ワイキキではなくローカル地区(サウスキングストリート)を選んだ。この店は、現地雑誌「ホノルルマガジン」主催のハレアイナアワード賞受賞や、現地新聞「ホノルル・アドバイザー」主催のイリマアワード賞受賞などの実績を築いている。

武長氏は、折に触れてDDホールディングス社長の松村氏から「強みを築いて、自分らしい経営をするように」と教えられてきた。上場すれば相談を受ける側にも立つが、創業期の外食経営者には、自身が松村氏に教えられたように歩んでほしいと望んでいる。

インタビュアー

株式会社KSG
眞藤 健一
株式会社トラフィックラボ
清水 彰人

経済ジャーナリスト
小野 貴史