豊富な経営指導経験と経営の実践で培った大塚氏の飲食ビジネス論は、原理原則を突いている。
「飲食店家経営は足し算のビジネスです。1店舗の売り上げと利益の足し算であって、多店舗化したところで、それだけで効率化できるビジネスではありません。人が関わるビジネスなので、多店舗化するとQSC(品質・サービス・清潔)が安定せずに躓いてしまいがちです。多店舗化すれば人件費をコントロールするために、パートタイマーを起用せざるをなくなりますが、社員でカバーできる範囲を超えるとサービスに支障が出てしまうのです」
足し算には積み重ね以外の算段しかないが、この原理は、いまの外食市場でどこまで有効なのか。
「たとえば初期投資3000万円をかけて出店して3~4年で回収する計画を立てた場合、3000万円を利益のなかから費用を賄うか、それとも利益を実績に借り入れるのが通例ですが、要するに飛び道具がありません」
だが、こうした現実を把握せずに、飲食店経営は素人でも創業しやすいと曲解されていることは否めない。大塚氏は次のように指摘する。
「日本は世界でも起業しやすい国の1つですが、素人プランにも創業融資が出やすくて、ビジネスの素人が最初にイメージしやすいのが飲食なのです。飲食なら商品を自分で作れて、売り上げがゼロになることも考えにくいじゃないですか。しかもライセンス制がないので、誰でも参入できてオーバーストア状態になっていて、需給バランスが崩れています。
飲食店経営の成功は業態と立地のマッチングで決まりますが、この原理が分かるようになるには、よほどの経験値とセンスが必要です。自分がつくった業態を単純に増やす経営は負けの方程式に入ってしまうと言う事実を理解した方がベターだと思います」
創業期の飲食店経営者にとって、多店舗化の有効な手段は必然的にFC加盟になるという。
「勝つ確率が高いのはFCパッケージです。運営が標準化されているので品質が安定するうえに、自分の能力不足を本部が担保してくれます。開業希望者の大半が失敗する物件調査も、本部がカバーしてくれます。同じ投資をするのなら、自分の業態を多店舗化するよりも、いったんFCに加盟して3~4店を展開したほうが、利益率は下がっても成功できる確率は高いのです。3~4店から次のステージに進めるかどうかが飲食店経営の生命線ですが、そのためにはオーナーが出店を直接手がける必要があり、オーナーの給料の原資と既存店を任せられる体制を固めておかなければなりません。その意味で、成長のステップとしてFC加盟が現実的といえるのです」
飲食店経営に知悉していた自分でも、かりに営業利益率15~20%で多店舗化に入っていたら、いまのグロブリッジは存在しなかった。“普通の経営”とは異なる路線を敷いたからこそ、今日がある。大塚氏はそう思っている。
経済ジャーナリスト
小野 貴史