一つは、寿司・和食への特化とそれに伴う人材育成。もう一つは、寿司・和食の新しいビジネスモデルへのチャレンジだ。寿司・和食への特化を打ち出した背景には、中華料理店や焼き鳥店などにも手を広げた過去の多角化路線への反省もある。「私は、経営規模の量的拡大は求めません。質的向上を目指しています。それには、約50年の歴史がある寿司・和食の領域に磨きをかけたほうがいいし、人材育成の方向性も見出しやすいと考えています」と、田舞社長は話す。
本格派の寿司店の評価が、寿司職人の腕にかかっていることは言うまでもない。そのため、同社では「食べ物づくり人づくり」という理念を掲げ、寿司・和食の料理人の育成に力を入れている。例えば、若手・中堅の料理人を対象に、定期的に「調理技術道場」を開講。志願者の中から選抜したメンバーを参加させている。さらに、料理人全員が腕前を競う社内技術コンテストを毎年2月に開催、調理技術のレベルアップを図っている。
面白いのは、社員の「暖簾分け」を積極的に支援していること。せっかく育てた優秀な料理人が独り立ちしてしまうのはある意味、経営にとってダメージになるはずだが、田舞社長は「独立心のある料理人のほうが役に立つ」と言って憚らない。「いずれは自分の店を構えたいと思っている料理人は、目標がはっきりしているので意識が高く、熱心に働きます。サラリーマン根性の染み付いた料理人と比べると、成長の度合いがまるで違うんですね。当社としては、独立志向の人材が集まってくるのは大歓迎。現在、従来の独立支援制度をバージョンアップした新しい制度を検討中です」
その一方で、ビールメーカーなどでの経験を生かし、組織改革も進めている。そのポイントは階層をフラット化して上下の風通しをよくし、意思決定のスピードを上げたことだ。
「私が入社した頃、寿司店は徒弟制度が色濃く残っていて、上下関係が厳しいタテ社会でした。礼儀作法がしっかり身につくといった利点はあったのですが、今の若手は一方的なトップダウンではついてきません。そこで、私は、社員が働きやすいように“バックアップする”リーダーシップに切り替えました。組織を持続させるためには、伝統のよさは残しつつも、組織の形を時代に合わせて変えていかなければならないのです」と、田舞社長は力説する。