田舞社長は今後、外食産業が勝ち残るためには、「地域に密着し、その商圏の生活の中に根づくこと」がカギだと見ている。
「冠婚葬祭やハレの日を考えてみてください。席で供されるのはアッパーゾーンの食事でしょう。寿司や高級な和食は適しているわけですね。『ハレの日と言えば寿司。近畿で寿司店と言えば音羽』といった具合に、ブランディングによって、そうした需要を確実に捕らえるようにしたいですね」
「新しいことをしたいと私が言っても、経営会議でほかの役員や幹部からブレーキをかけられ、なかなか思うようには行きません」と、田舞社長は笑う。しかし、経営戦略の次のフェーズとしては、新規事業に打って出ることも視野に入れている。「経営の意義を見出せたら、海外に進出する可能性もありますね」。その際、有力な武器となると、田舞社長がにらんでいるのがM&Aだ。
「水産仲卸をM&Aで垂直統合して、食材の調達力を高めるというのも一つの手だと考えています。寿司店や和食店が質で差別化するなら、ネタの勝負になりますからね。それから、冠婚葬祭関連といった寿司店や和食店の周辺領域も、M&Aの有力候補になるでしょう。ただし、飲食業を水平統合する可能性は限定的でしょう。フレンチレストランといったほかの領域は対象外だし、寿司店や和食店のチェーン店も当社の経営規模では体力的に難しい。例えば、個人で経営していた寿司店が廃業した場合、それを継承するケースは考えられますが」
田舞社長は、「経営には遊び心が必要」というのが持論だ。「ビジネスライクな損得勘定ばかりでは、働いていてもつまらないでしょう。クリエイティブな発想も生まれませんよ」と言い切る。そうした田舞社長の姿勢は、音羽の社風にも現れているようだ。ひと言で表すなら、「夢のある寿司店」と言えようか。次にどんな新しい試みにチャレンジするのか、期待を抱かせるのが音羽という企業なのだろう。