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大阪・東京など大都市圏で100店舗体制へ4業態に加え、新業態の古民家風居酒屋も開発 / 注目ベンチャーインタビュー後編千房ホールディングス株式会社
代表取締役 中井政嗣

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千房ホールディングスが力を入れているのが「人づくり」

「うちの店がまだ小さかった頃は、人集めに苦労しました。無名の飲食店に、最初から優秀な人材が応募してくるはずはないんですよね。うちの店で教育して、優秀なスタッフに育てるしかなかったんです」と、中井政嗣社長は振り返る。

同社は基本的に、社員をスカウトではなく、自前で育成するシステムになっている。「子育てと同じです。我が子の教育を人任せにする親はいないでしょう」というのが、中井社長の持論だ。新入社員、中堅社員、幹部社員といった階層ごとに、社内研修を行っている。「経理、広報といった専門の知識やノウハウが必要な職種については、外部からベテランを招く場合もありますが、彼らに店長経験者をつけて、知識やノウハウを社内に吸収するようにしています」(中井社長)。

同社の社員研修は厳しい。接客の基本やマナーを徹底的に叩き込まれる。「新人のうちは、個性なんて必要ありません。まず仕事を一人前にこなせるようになってからです。吉本新喜劇だって、そうでしょ。最初からアドリブを許される芸人なんていない。台本どおりに完璧に演じられるようになってからです。うちの店のスタッフは、茶髪やピアス、ネイルなどはすべて禁止です。接客業であれば、清潔な身だしなみは当然のこと。個性云々の話じゃない。もし異論を唱える人間がいたら、『高級ホテルを見てみなさい。茶髪やピアスをしたスタッフがいるんか』と、言いますよ」

中井社長は創業間もないころから、「社員が夢や希望を抱ける会社にしたい」と、経営にまい進してきた。多店舗展開したのは、「第1号店をオープンしたとき、スタッフが5人いたんです。彼らを店長にしてあげるには、5店舗は出店しないと」と考えたからだそうだ。そもそも高級志向のお好み焼店にしようと中井社長が考えたのも、スタッフが年齢を重ねてもプライドを持って働ける職場にするためだ。

「器が人を育てると言いますが、いい店ではスタッフも立派に育つものなんですよ。店のグラスが高級ブランドだったら、スタッフも安価なグラスと同じようには扱わなくなるんです。スタッフの心構えも、責任感も見違えるように変わるんです」

同社には、そのほかにも特筆すべき取り組みがある。少年院や刑務所の出所者を積極的に雇用しているのだ。出所者の再就職先はきわめて限られており、それが再犯率の高さにつながっていると知って、中井社長は社内の反対もありながら、出所者の受け入れを決断したのだという。「飲食店は人気が命ですから、正直言って最初は不安でしたが、蓋を開けてみたら、大勢のお客さまから励ましのお言葉をいただきました」(中井社長)。
とはいえ、このプロジェクトが順調にいったわけではない。出所者をこれまで26人以上採用したが、なかには店を辞めてしまう者もいる。

「何度も心が折れそうになりましたが、出所者の受け入れは続けていくつもりです。私の母は、私が事業で成功するなど夢にも思わなかったそうです。子どものことをよくわかっているはずの母親ですら、そうなんです。逆に言えば、人間はそれだけの未知の可能性を持っている。生まれ変わることができると、私は信じているんです」

今後、100店舗以上にチェーンを拡大する方針

「いま店長の下に主任が60人くらいいるんですが、彼らを店長にしてあげるには、さらに60店舗くらい増やさないといけないので」と、中井社長は力強く語る。ただし、地方店は運営効率が低いので、「暖簾分け」の形で店長に譲渡したり、フランチャイズ契約にしたりして切り離し、出店エリアは大阪、東京、名古屋、京都、神戸の大都市圏に絞り込む考えだ。

同社の業態は現在、ターゲットに対応して、リーズナブルな①ベーシック、女性客がメーンの②エレガンス、高級路線の③ぷれじでんと、商業集積向けの④フードコートの四つに分かれている。②は、服ににおいがつかないように、店舗に鉄板で焼かない設備や強力な空調を導入するなど、きめ細かい工夫を凝らしている。③は、アワビや伊勢海老のステーキなどのメニューも揃える。客単価は約8000円だが、「同じようなメニューなら、ほかの鉄板焼き店より断然安い」と、中井社長は胸を張る。さらに、お好み焼や鉄板焼きをベースにした「古民家風居酒屋」の新業態開発も検討している。

「100年企業」を目標として、チャレンジと進化を続けていく千房ホールディングス。これからどんな変革を遂げていくのか、要注目だ。

インタビュアー

株式会社KSG
眞藤 健一