低コスト化のポイントの第一が豚の直接取引。実は、中村社長は、生家がかつて茂原市で精肉店を営んでいたため、畜産品の流通にくわしく、畜産農家や精肉市場とのコネクションもあった。それらを生かして畜産卸に参入、家畜の屠場を利用できるようにした。その上で、養豚農家を1件1件口説いて、豚の直仕入れを拡大していった。
「屠場がないと、農家から家畜を引き取ることができないからです。農家には一般の卸よりも高めの仕入れ値を提示して、協力してもらっています。肉やもつは、メニューに応じて部位別の必要量を確保しなければなりませんが、畜産卸を兼営すれば、肉やもつが余っても外販で効率よくさばけるので、適正なストックが維持できるわけです」(中村社長)
畜産品の大半は、一次卸→二次卸という流通ルートを経由するため、中間コストが高くなる。大半の居酒屋は豚の肉やもつを二次卸、もしくは精肉店から買い入れているが、同社はその数分の1の原価で調達できるという。さらに、2013年には、千葉県の直営牧場で養豚にも乗り出した。現在、「縄文豚」(沖縄のアグー豚の純血種)を約300頭飼育している。
養豚農家や直営牧場から集められた豚は、屠場で処理されたあと、茂原市の直営工場で集中加工される。それが第二の低コスト化のポイントだ。
「もつ焼き店では、原価のほかにコストがかかるのは人件費なんですね。とりわけ、もつを串に刺すのに、時間と手間がかかるんです。そこで、工場に串刺し作業を集約しました。工場のスタッフは作業に熟達するので能率が高まり、各店で串刺し作業をするよりも労働生産性が格段にアップします。さらに、店頭での串刺し作業が不要になるため、店舗も厨房設備が縮小でき、串焼きや接客に専念できます。作業人数も減らせるので、人件費がぐんと下がるのです」
工場で加工したもつの串は、専用トラックで毎日、各店に配送されるので、鮮度は保たれている。工場と配送の人件費は現在、月に約600万円かかっているが、仮に店頭での串刺し作業に切り替えたとすると、全店の人件費は月に約1700万円増えると推計される。つまり、月間人件費が約1100万円節減できるというわけだ。
ライター
野澤正毅