飲食事業では店舗運営に目が行きがちなのだが、こうした流通の「仕組み化」に着目したのは、中村社長自身のこれまでの経験がバックボーンとなっている。
中村社長はもともと料理が好きで、調理師専門学校を卒業後、東京・麻布の有名イタリア料理店に入り、料理人としての修業を積んだあと、ドトールコーヒーの工場に転職した。さらに、起業を決意して住宅メーカーの営業マンに転身、独立資金を貯めて当時、日の出の勢いだったITベンチャーを設立した。ところが、当初は順調に業績を伸ばしていたものの、ITバブルの崩壊であえなく倒産。約4000万円残った負債を返済するため、今度は居酒屋チェーンとフランチャイズ契約を結んで、地元の茂原市に焼き鳥店を開業し、それがきっかけとなって、2年後に自前の串屋横丁をオープンするに至ったのだ。
「最初に大きな影響を受けたのはドトールコーヒーでした。本格焙煎の喫茶店のコーヒーが格安で飲めるという仕組みに関心を持ったんですね。さらに、自分でも実際にFCの焼き鳥店を経営してみて、飲食事業やFCビジネスの問題点に気づいたんです」
中村社長が考えたのは、「頑固親父がやっているもつ焼きの繁盛店を、チェーンとして仕組み化すること」だったという。
「その土地で長年続いている個人店は、設備投資や賃料がかさむチェーン店と違って、店舗や設備が自前で、ローンを抱えていないケースが大半なんですね。FC契約もしていないので儲かる。ところが、串屋横丁の直営店は、さらに個人店よりも原価が安く、食材を工場で集中加工するので、仕込みの人件費もかからない。同じ売上げなら断然、利益率が高いんです。最強のビジネスモデルですよ」
きわめつけが給与システムだ。売上げに応じた実績給が基本となっているので、固定給の支払いで経営が圧迫されることがない。「店の売上げが上がれば、自分の給料も上がるという、わかりやすい給与体系です。放っておいても、店舗のスタッフは頑張って働いてくれるんですよ」と、中村社長はにんまり笑う。
実際に、20代でも年収1000万円を超える直営店長が続出している。外食産業では希有な例と言っていいだろう。同社では、FC加盟店も募集しており、2015年からは店長を養成するための「串屋横丁経営実戦塾」を無料で開講、独立を目指している社員やFC契約を結んだ研修生が参加している。入塾から独立まで最短2年半が目安で、すでにFC店は約30店舗に達している。「FC店のオーナーには10店舗出店、年間経常利益1億円を経営目標にしてもらっています。そうなれば、年収5000万円も夢ではありません」と、中村社長は豪語する。
同社は、串屋横丁のほか、牛の「熟成肉」などを提供するイタリアンステーキレストラン「小松屋」も、東京・銀座などに4店舗展開している。2年後をメドに第二の直営牧場も開設する計画。しかし、「首都圏で100店舗体制を築いたら、店舗開発はいったん止めます」と中村社長は言い切る。それ以上にチェーンを拡大すると、肉やもつの直接調達、工場からの毎日配送が難しくなるからだ。
「うちの生命線は流通の仕組み。経営は量ではなく、質が大切なので、必ずしも売上げは追求しません。それに、ほかの飲食のベンチャーのように、IPOも考えていません。外部の株主が増えれば、経営の自主性が損なわれるリスクがあるからです。まわりと比べる必要はない、自信を持てと、若手の経営者には言いたいですね」
中村社長は来年、50歳を迎えたら経営の第一線からはセミリタイヤし、世界中を巡って趣味の釣りに没頭するなど、人生を謳歌したいと夢を語る。「仕事は人のために行うもの。企業は社会に価値を生み出すための仕組み。お客さまも、お取引先も、社員も幸せにならなければ、企業を経営する意味はありません」。独自路線を貫くドリーマーズ=「夢見る集団」がこれからどこへ向かうのか、ますます注目が集まりそうだ。