ITの原点は、創業社長・古木大咲氏のアナログ体験にさかのぼる。古木氏は高校を中退し、複数のアルバイトを経て、2001年に21歳で初めて正社員になった。就職したのは福岡市の投資用アパート販売会社で、営業職に配置されたが、飛び込みに拠っていた営業方法はいかにも非効率だった。
古木氏は会社に、アパート経営に特化したネット集客を提案する。ホームページが開設されて以降、毎月5000円のサーバー利用料を支払うだけで、全国から毎月30件程度の問い合わせが入り、古木氏の販売実績は年間20棟に到達した。「ネットは効率が良いなぁ」と実感したのだった。
この経験をもとに06年に独立。福岡市でインベスターズクラウド(当時の社名はインベスターズ)を設立した。資金調達をして、土地を仕入れたうえでアパートを建設し、ネット集客で販売する。このモデルで設立翌年には累計40棟を販売し、福岡市内でアパート販売実績トップに躍り出たが、08年、リーマンショックに直面する。年間売上高は20億円に達したが、資金繰りが悪化して在庫負担が重くのしかかり、古木氏は経営全体の見直しに着手した。
「営業出身の経営者にありがちだが、私も勘定をあまり見ていなかった。そこで財務廻りに関する専門書を読み込んだところ、不動産業はキャッシュフロー経営に弱く、フリーキャッシュフローを生み出すには在庫を持たないビジネスにつながった。そこで今のビジネスモデルを確立した」(古木氏)。
確立には3年を要した。土地情報の入手から紹介まで通常なら1週間を要するが、ITによる調査の効率化で3日に短縮するなど、一つひとつの業務のスピードや精度の向上を「不動産業界によくある気合いではなく、ITで解決した」(古木氏)。
キャッシュフロー経営はどんな成果を出したのだろうか。
アパート販売会社が土地を購入すれば、年間売上高の5割程度の土地在庫を抱え、これを借入金で賄うのが通常の方法だ。同社の14年12期通期売上高は146億円だったが、土地在庫を所有しないため、借入金は10億円だった。一方で現預金は25億円。実質的に無借金経営が実現し、その借入金も今期で完済予定である。
今12月期には売上高190億円を見込むが、これだけ成約が拡大しているのはオーナーのメリットが大きいからである。デベロッパーによる土地購入が介在すると、例えば3000万円の土地に対して概算で仲介手数料(100万円)、取得税(50万円)、登記費用(50万円)、利息(50万円)、業者利益(300万円)が加算され、オーナーには3550万円で売却される。
これに対して同社のビジネスモデルでは、同社の仲介手数料が加算されるだけで、売却価格は3100万円。オーナーは450万円を削減できる場合もある。
オーナーの属性は30~50代の会社員で年収1000万円超がメイン。販売価格は土地と建物で計1億円前後。物件のほとんんどが駅から15分圏内で、スーパーやコンビニエンスストアの付近という利便性の良い立地に所在し、しかも入居率の高いデザインアパートに設計されている。
営業手法は公明正大に徹しているという。物件の家賃収入が毎年目減りすることや、家賃保証を付けないことなどを明言して「投資リテラシーの高い層から信頼を得るように努めている」(古木氏)。その結果、入居率は98%超を維持している(2015年1~5月平均)
こうして、クラウド化をベースにキャッシュフロー経営を確立できたKFS(Key Factor for Success=成功するための要因)は何だろうか。古木氏はこう答える。
「リーマンショック後に投資すべきところには投資するという判断で、エンジニアを採用し、システム開発を社内で行なってきたことだ。システムには日々使いにくい箇所が見つかるが、迅速さが要求されるアジャイル開発には、社内エンジニアでないと対応できない。エンジニアは福岡支店8人在籍しているが、福岡には東証一部上場企業で活躍した第一級のエンジニアが数多くUターンしているので、優秀なエンジニアを確保しやすい」。
好調な業績を維持しながらも古木氏は、リーマンショックの教訓から、突然の金融危機発生を念頭にリスク管理を強化している。2年前から社員を増員せず、人件費の拡大を抑制する一方で、取引金融機関もメガバンク、地方銀行、信用金庫など約100先に分散させた。
目下の課題は知名度の向上で、株式上場によって全国1万2000の不動産事業者、オーナー候補層の双方にブランディングを図る計画だ。その後はネットとリアルを融合させたビジネスの開発や、個別商品供給型アパート経営支援モデルの海外展開を構想している。