サービスメニューの拡充に加えて、コストコントロールも競争力を生み出した。オーダーの大半がホームページ経由で入るため営業経費を縮減できるうえに、年間400棟というスケールメリットを活かして、施工会社への工事代金も抑制できている。
コストコントロール策は建物価格に反映されている。建築工事原価が1600万円の住宅を例に見れば、ハウスメーカーと設計事務所の場合、営業経費や工務店利益などを加算して2240万円になると試算できるが、フリーダムなら2079万円に抑制できるという。
これらの競争力は必ずしも戦略的に培ったのではない。鐘撞氏はこう打ち明ける。
「設計事務所として受注を拡大するにはどうすればよいのか。お客様に品質の高い住宅をリーズナブルな価格で提供するにはどうすればよいのか。この2つの視点で、設計事務所に足りないサービスを追加してきた結果、現在の事業内容になったのです」
2017年7月、フリーダムは新たな市場として富裕層に着目し、建物価格(設計監理費用含む)が1億円以上の家づくりプロジェクト「社長の邸宅」をスタートさせた。プロジェクトの背景について、鐘撞氏は次のように説明する。
「私は47歳ですが、私の年代になるとベンチャー企業を成功させた経営者が多くいて、彼らには自分らしい家を作りたいという希望が多いのです。ところが、住宅展示場に行っても提案が少なく、工務店ではデザイン力が弱く、設計事務所はホームページを探して連絡を入れるというように受け皿が少ない。そこで年間400棟を設計施工して培った知見を活かして、マーケットを取りにいこうよという動機でスタートしました」
このプロジェクトでは、VR(仮想現実空間)を駆使したプレゼンテーション、ラグジュアリーブランドとの連携によるインテリアコーディネート提案など、さまざまなプレミアムなサービスを提供している。
この1年で4棟を受注し、平均単価は2億5000万円。最高額は7億円。現在は約20件の商談が進行中だ。
当面の重点施策はおもに3つである。第一に、年間受注棟数を5年以内に1000棟に拡大すること。集客ルートのホームページには1日に1万ものアクセスが入り、毎月約220組の商談が行われている中で、設計者の増員などで歩留まり率を1・3倍に引き上げる。第二に、「Google Maps API」と連動して全国の宅地情報を検索できる「みんとち」(みんなの土地探し)のリリース。第三の施策はVR事業の拡大で、コンテンツを拡充する。
3つの施策とも、設計事務所の機能強化という従来の方針の継続である。
こうして、フリーダムは戸建住宅専門の設計事務所として異例の地歩を固めている。成長の源泉を尋ねると、鐘撞氏は「二律背反を追い求めたことです」と独特の表現で返してきた。
「設計者は職人気質で独善的な面がありますが、経営者は皆の話を聞きながら仕事をしなければなりません。自分が得意な仕事とは真逆の仕事に取り組むことが、成長を導く力になります」
あえて不得手な仕事を完遂させることは、自分の器を拡大する王道でもある。
経済ジャーナリスト
小野 貴史