安部社長はリンク&モチベーション出身で、2010年にフロムスクラッチを立ち上げた。事業領域として、まずITを活用したマーケティングに照準を定めたのは、「約20年と歴史が浅くて、技術レベルが発展途上であること。その一方、クライアントからのニーズが急拡大していること。取り組む価値が大きいと判断したのです」。ネット広告の代行からスタートし、マーケティングのコンサルティングに展開していこうとしたところ、壁にぶつかった。広告の費用対効果を部分、部分で検証する情報システムはあったのだが、川上から川下までオールインワンで検証できる情報システムが、世界のどこを探してみても見つからなかったのだ。そこで、「自社で開発するしかないという結論になったのです」。
リンク&モチベーションでは、人件費について、「どんな人材がどの部署に何人必要か」といった人事計画の策定から、リクルーティング、研修、配属、人事評価、昇進に至るまで、費用対効果を一貫管理するシステムを構築していた。「そうしたシステムは、広告も含めた広義のマーケティングにも生かせると考えました。その結果、14年11月にリリースしたのがB→Dashだったのです」と、安部社長は振り返る。
B→Dashを導入すれば、主に二つの点でメリットを得られる。一つはマーケティング施策の最適化による収益の最大化。つまり、費用対効果の小さい施策を止めて、効果の大きい施策に絞り込むことで、投下するコストを最適化し、収益の最大化を図ることができる。もう一つは、マーケティング業務の効率化による人件費とシステム費の圧縮だ。マーケティング施策の費用対効果を検証する従来の情報システムは分断されていたため、複数のシステムを導入しなければならず、さらにはシステムとシステムをつなぐ作業が必要になり、それにかかわる多額の人件費とシステム利用費も発生していた。B→Dashの場合、川上でデータをインプットすれば、要望に応じてデータを解析し、べストプラクティスを自動的に出力してくれるので、手間も時間もかからず、もちろん複数システムを入れる必要もないのでシステム利用料も大きく下げることができるのだ。B→Dashはリリース以来、引き合いが殺到しており、半年前に比べて、売上高が2倍以上に増えているという。導入したクライアントで、ROIが50%増となった例も少なくないという。
実は、安部社長は、「現在のビジネスモデルは、あくまで仮の姿」と語る。大学在学中のインターンシップ、卒業後に就職した企業でもトップセールスになったが、「世の中を動かすには、事業で成功するのが早道。学生時代から起業を考えていて、そのノウハウを取得するためでした。ただし、ビジネスは社会の変化に応じて変わっていくので、変化の早い現在では、ビジネスモデルを先に作るのではなく、新しいビジネスモデルをタイムリーに作り出せる優れた人材・組織を確保しようと考えていました」。ヘッドハンティングでリンク&モチベーションに転職したのも、「当時、優れた人材が最も集まっていた会社の1つだから」。B→Dashを開発したスタッフを獲得できたのも、多くの優れた人材と関わってきた賜物だろう。
今年5月には、ドレイパーネクサス、伊藤忠テクノロジーベンチャーズなどに約3億円の第三者割当増資を引き受けてもらい、6月には戦略顧問として元LINE社長の森川亮氏を招聘するなど、アドバイザリーボードも強化している。
「今が攻めのチャンスと見て、時間をかけずに一挙に成長させようと考えたんです。開発資金を集めるだけでなく、知名度を高めるためのブランディングの一環でもあります。森川さんに来ていただいた狙いは、ノウハウやナレッジを吸収するだけでなく、当社のネームバリューも上がるし、何よりハイレベルの人脈が得られるからです」
B→Dashは今後、「AIとして進化させたいし、会計管理、労務管理などにも水平展開し、ゆくゆくはマーケティング領域のみならず、ビジネス全域にまたがるトータルプラットフォームに成長させたい」と、安部社長は意気込む。クライアントのビッグデータが集積されていけば、マクロ市場のマーケティングにも応用が可能だ。さらに、海外への事業展開も見据える。
「日本はユーザー本位の商品開発が得意なので、日本製品はBtoCでは世界を席巻していますが、ITの基幹システムのようなBtoBでは欧米勢にかなわない。要因はマーケティングの差だと思う。B→Dashを活用すれば、欧米メーカーに太刀打ちできるようになります。もちろん、B→Dashの機能はグローバルに通用すると考えています。欧米メーカーにも導入してもらいたいですね。日本はいま元気がありませんが、B→Dashが海外市場を席巻し、、日本の未来を明るくするのに貢献したい」
安部社長はIPOも検討しているという。「パブリックカンパニーにすることで、メッセージを発信できるようにしたい。メッセージが人々の共感を得ることで、社会を変える力になっていくのです」。スティーブ・ジョブズがアップルを一代で築いたように、「社会に影響力を与える企業に育てることは可能」と言い切る安部社長。学生時代から温めていた夢は、まさに花開きつつあるようだ。