別府温泉から始まる足跡を追う
2015年はサラヴィオ化粧品(大分県別府市)にとって、成長へのターニングポイントになる1年だった。3つの慶事が続いたのである。
まず1月、同社の研究チームが温泉の中に潜む高い抗炎症作用を持つ藻を発見し、「温泉藻類®RG92」と名付け、特許を取得した。翌2月に中小企業基盤整備機構が主催する「ジャパンベンチャーアワード2015」で地方創生特別賞を受賞し、さらに7月には「温泉藻類®RG92」を乾燥粉末状にした機能性食品素材の開発が、2015年度経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業に採択された。
同社の足跡を概観すると、まさに“地方創生型ヘルスケアベンチャー”である。設立は2006年。
酵素の原料メーカーと提携して酵素分解法で抽出した低分子コラーゲン使用し、敏感肌に親和性の高い商品を開発したが、販売手法に対する経験不足から初年度の年商は300万円にとどまった。しかし、これは憂慮されるような実績ではない。同社の年商は2年目に700万円、ネット通販に力点を置いた3年目には7000万円に増え、4年目には2億6000万円へと急拡大した。軌道に乗ったのである。ところが、業績向上だけでは片付けられない問題に直面する。
社長の濱田氏は当時、商品梱包、配送、WEB制作、コールセンターでの顧客対応まで全ての業務に従事していた。商品が防腐剤を使用していないため肌に優しく、アトピー性皮膚炎の方から好評を頂き、日々の悩みを打ち明けるなど厚い信頼を寄せる顧客も数多くいた。
これらの悩みや相談に対して、メーカーとして責任のある回答を示さなければならない。だが、社内に医学の知見を持つ者はいない。大学教授や医師に問い合わせて、アトピーの原因と治療法について教えを請うた。その過程で、ひとつの確信が生まれたという。
「自社内に研究開発チームを持たなければ、本当の意味での信頼性の獲得には至らない。また、自社内のチームで商品を開発すれば競合他社に勝てる!と思った」。
この確信が分岐点となった。利益のほとんどを研究設備の調達に投入し、確信を実行に移してゆくうちに、運に引き寄せられるようにブレイクスルーの種が舞い込んできたのだ。
まず、人材である。2010年、英国のマリーキュリー研究所で分子モータータンパク質を研究していた加世田国与士氏(情報工学博士)を筆頭に優秀な科学者たちが集結した。加世田氏は新設されたサラヴィオ中央研究所の所長に就任。温泉研究を基盤とした研究が今日の事業に結びつく。大分県の地域振興策が伏線になった。