そこで弊社は、DXについて、各業界をリードする企業がどのような取り組みを行っているのかを取材し、未来へ向けての考察として読者にお届けする。
本企画では、DXの最前線に立つゲストとして、AI、FinTech、ブロックチェーンなどの先進技術の開発を行うレヴィアス株式会社代表取締役の田中慶子氏を招き、様々な領域でトップを走る企業の代表者様と今後のデジタル化社会について語り合う。
今回は、「情報通信技術の進歩を人に優しいかたちにして、愉快なる未来を創る」というミッションのもと、世界最速レベルの処理速度を持つDSP(Demand Side Platform)「Logicad」やソニーの研究所で培われた技術をベースとした人工知能「VALIS-Engine」により、高い広告効果を提供するSMN株式会社 代表取締役社長の石井 隆一氏との対談を実現。
AIの活用が叫ばれる中、AIを使う「人」こそが重要であるという観点から、今後の社会のあり方について議論が行われた。
記者:
DXをテーマにそれぞれの企業様がどのような取り組みをされているのか対談形式で伺わせていただいています。早速ですがSMN株式会社様のご紹介をお願いします。
SMN 石井代表:
弊社はソニーグループ傘下でマーケティング・テクノロジーを担う、SMN株式会社と申します。最先端技術を活用した広告配信サービスを強みとしています。
もともとソニーの研究所でパーソナルオプティマイゼーションを開発していたチームがこちらに異動し、AIのエンジンを一から三年がかりで作りました。DSPを含めた広告配信サービスは、RTB(Real-Time Bidding)を主力としており、その他にも関連した新規事業をデータドリブンで進めている会社です。
このRTBというのは簡単にいうと、以下のようなものになります。
まず、例えばAさんがウェブサイトを開いた瞬間に、「Aさんがブラウザを開いていて、Bの広告枠があります、それをいくらで買いますか?」という情報が我々に届きます(便宜上、Aさんとしていますが、もちろん個人情報には一切紐づいていないデータです)。AさんがWeb上の行動履歴からどのようなものに興味を持っていたかのデータがありますので、そこからAさんに見せる広告枠の価値は百円であると判断して、任意に入札します。他にも入札者がいるので、オークションに勝ったら広告配信ができます。AIを使っているのは、この広告枠に入札する価値判断の部分です。この人のこの枠はいくらであれば最適か、という演算を1000分の3秒という速さで行っています。
記者:
そのようなことが広告の裏側では行われているのですね!RTBの中でAIの役割をもう少しお聞かせいただけますか。
SMN 石井代表:
はい、弊社のAIは価値判断を高速・高精度で実現します。先ほどの例のように、Aさんがブラウザを開いてリクエストが飛んできた瞬間に、Aさんの過去のデータから、例えば化粧品に興味があり、特にB社の化粧品に強く興味を持っていると判断します。その場合は少し高く応札してもAさんが商品を買ってくださる可能性が高い、という判断をして広告を配信します。
AIの欠点は、Aさんがこの化粧品に興味を持ち購入された理由までは分からないということです。しかし「なぜ買ったのか」こそが重要なので、様々なデータからAさんがなぜこの商品に興味を持ってクリックしたかを分析するツール、「VALIS-Cockpit」を開発して実用化しています。
記者:なるほど。例えばAmazonのサイトを見ていたら「おすすめ」が出てきますが、貴社のAI技術はどのようなサイトで使われているのでしょうか。
SMN 石井代表:
Amazonの「おすすめ」はAmazonが所有している膨大な購買履歴から演算されて表示されています。弊社の場合はウェブの閲覧履歴、いわゆるCookieを分析して最適な広告を出すという形になります。例えばVentureTimes様にも表示される広告枠も同様になります。
記者:
では、RTBというやり方は様々な広告プラットフォームで行われていて、メリットとして、広告主は広告費用が低く抑えられる、そしてAIによって商品のリコメンドが行われるために、よりマッチングしたユーザーに表示されるということですね。
今後のRTB市場の展望はどのようなものですか。
SMN 石井代表:
現在非常に大きな局面を迎えていて、弊社がデータとして活用しているCookieが問題になっています。本来Cookie自体は個人情報と紐づけられていないのですが、 Cookieを用いない「Cookieレス」を目指す動きが活発化しています。
記者:
「Cookieレス」になっても情報収集に影響は出ないのでしょうか。
SMN 石井代表:
Googleが Cookieに変わる仕組みを二年以内に提供することになっているので、今後はそちらに対応しなくてはいけません。このようなことはずっと続いていて、昨年もGoogleのルール変更がありました。入札価格に対して、二番目の価格を出した人が競り落とすというルールでしたが、今は一番高い人が落札できるルールに変更されました。これは我々にとっては非常に大きな変更で、このようなことが起きるたびに事業を諦める事業者もいれば、弊社のように愚直に続けている企業もあります。
記者:とても興味深いですね。ありがとうございます。では、レヴィアス様も自社のご紹介をお願いできますでしょうか。
レヴィアス 田中代表:
弊社は2018年に設立した3年目のスタートアップ企業です。主にブロックチェーンとAIを活用した受託開発に力を入れていて、現在は自社でプラットフォーム開発も行っています。
日本は様々なサービスがまだアナログ、紙ベースで扱われていますが、世界的にはデジタル化が進んでいます。弊社はブロックチェーンとAIの技術を活用し、既存のサービスを融合させてデジタル化を促し、人々に便利になったと言っていただけるようなインフラの構築を目指しています。
また、人々に使っていただくには、認知してもらう必要があります。その意味で弊社は自社が開発しているプラットフォームや技術、知識を公に配信しています。
そうして弊社は、スタートアップとして、ユニコーン企業を目指して日々努力しております。
記者:
レヴィアス様のフィンテックに関するお取り組みもお話しいただけますでしょうか。
レヴィアス 田中代表:
弊社は主にデータガバナンスに重きを置いています。日本政府が未来社会、Society5.0という世界観のもとで最重要課題として掲げているのがDFFT(Data Free Flow with Trust)、信頼性のある自由なデータ移行技術です。データが移転するときに、誰がどのようなルールで生成して、どのように保証するかという、この領域で日本社会に貢献したいと思っています。
現在、金融商品取引業者様と協力して、これまで書面などの紙で管理されていた資産やファンドの持ち分などをブロックチェーン技術によって今までよりも簡単に社会に適応した形でデータ移転が行える環境をつくっていきたいと考えています。
先日、日本初のブロックチェーンデータを活用した有償型ストックオプション(新株予約権)を発行しました。弊社ブランドのJ-STOプラットフォームの利用者は、同プラットフォームを通じて当社新株予約権の行使及び譲渡の申請を行うことができ、取締役会に対する新株予約権の譲渡承認請求も、同プラットフォームを通じて行われます。
記者:
レヴィアス様はAIとブロックチェーンのシナジーを研究していらっしゃるのですね。
レヴィアス 田中代表:
AIに肩代わりしてもらうことで人の労力を減らし、人が本来やるべき仕事に注力することが重要です。
SMN 石井代表:
弊社も全く同じ姿勢です。我々の業界では広告運用が人力で行われていますが、AIでその部分を一部置き換えることを試験的に進めています。ただ、誤解のないようにお話すると、AIが人の仕事を奪うのではなく、人はもっと付加価値の高い仕事に移行し、キャリアアップしてもらうものです。
例えば、先ほど、なぜAIがAさんの買いたい商品を編み出したか、そのロジックを可視化するツールのお話をしましたが、このツールは、広告運用をはじめとしたビジネスやマーケットのことをわかっていないと分析できないので、人はそういった分析など担うことを考えています。
SMN 石井代表:
アルゴリズムを作るだけでは役に立ちません。ビジネスとAIの中間に立って課題を認識し、その課題をAIでどう解決するかを考えられる人材が必要です。本来であれば早くからそのような教育をしなくてはいけないのですが、日本はとても遅れています。中国では高校生の頃から課題認識の訓練等を行っているのですが、日本は大学でもやっていません。弊社の新入社員全員にAIとは何か、というところから説明して、最終的にはデータドリブンで仕事ができるようにしようという研修を進めています。
アルゴリズムを書く人と、それを実装する人と、データを整理する人など、様々な技能を持った人が必要で、バランスよく育てていかなければなりません。
記者:
なるほど。それは社会全体で取り組まなくてはいけませんね。
SMN 石井代表:
AIを課題解決に利用できる人材はこれから必要になってくると思います。
記者:
これからAIやIoTが広がり、広告も自動化されていく中で、ウェブの体験だけでなく、日々の生活でも自動化してく部分があるでしょう。その中で人間は何をするのか、それが問われる時代になるでしょうか。
SMN 石井代表:
そうですね。データを分析して、そこから課題を発見するのということはAIにはできません。課題を発見するのは人間の仕事です。
一つわかりやすい事例として「VALIS-Cockpit」というツールを活用したウォーターサーバーの事例を挙げさせていただきます。
ウォーターサーバーを購入した人と購入しなかった人が過去数週間にウェブ上でどのような言葉に接触したかを分析しました。すると購入した人が接触したワードは「赤ちゃん、健康、安全」という言葉で、育児をする人が購入しているとわかりました。逆に、Webまで来たけど購入しなかった人は「オフィス、事務、会社」という言葉を使っていました。キーワード分析をして、離脱ユーザーが使ったキーワードを収集することができますが、AIができるのはここまでです。そこから先は人間であるアナリストが、AIの分析した情報を持ってお客様の目線で見る必要があります。
今回の場合はクライアントのWebサイトがBtoB向けの訴求ができていないことがわかり、対策したところうまくいくようになりました。この課題の発見と解決は人間にしかできないので、そこを人間がやればいいのです。
レヴィアス 田中代表:
AIを使いこなすのが人間の仕事ということですね。
記者:
今のお話を聞くと、貴社のAI技術はRTB以外にも活用できると思うのですが、他にどのよう取り組みをされていますか。
SMN 石井代表:
RTBとは別の技術になりますが、画像認識でもグループ会社でユニークな技術を持っています。通常、機械学習のAIというと、学習させるための大量の教師データが必要なのですが、弊社は教師データがほとんどなくても、人間の目がどのように画像を認識するかということをアルゴリズム化することで画像認識を可能にしています。
例えば、車のエンジンブロックには傷がつくものがごくまれにあります。そもそも不良数が少ないので、教師データとなる画像も少ないわけです。そこで、人の目がエンジンブロックの傷をどう認識するかをアルゴリズム化して、エンジンブロックの検品に採用されたりしています。
レヴィアス 田中代表:
弊社でもぜひ活用させていただきたいサービスですね。これまでは銀行口座も窓口に行かなくてはいけなかったのですが、eKYCという個人情報をネット上にアップロードすることで、クラウド上に口座をもつことができる仕組みが広まっています。
一方でアメリカではディープフェイクという映像技術(AIによる人物合成画像)が人の目では真偽判定できないような映像が比較的容易につくれてしまうため問題になっています。AIで作られた画像データを見破るAIを開発することで、ディープフェイクに対抗するというような流れもあります。
SMN 石井代表:
面白いですね。AIで作られたディープフェイクをAIで検知できるのかが課題になりそうです。
レヴィアス 田中代表:
そうですね。デジタルの個人情報をどのように管理していくかというのはひとつの社会課題です。対面での認証を少しでも減らしたい一方で、ディープフェイクのような技術を悪用されると困りますので、対策を研究しています。ディープフェイク自体も進化していくので、表裏一体の攻防戦です。
記者:
両社様のご対談を聞いて、これからのデジタル時代は様々な企業様が得意な領域をカバーしあって作っていくのだなと感じました。最後に今後の未来社会に向けて、SMN様の展望をお聞かせいただけますか。
SMN 石井代表:
弊社のミッションはデジタルマーケティング会社として技術を課題に適応して、しっかりとクライアント様に貢献していくことです。弊社の持っているAIの技術を、テクノロジー領域だけでなく、様々な分野に応用したいと考えています。例えば、VentureTimes様のようなメディアも非常に相性が良くて、弊社の技術を使うと、読者がどのような内容の記事に興味を持っているかがわかるようになります。技術を適用して幅広くクライアント様の課題解決に貢献するのが弊社の方針です。
記者:レヴィアス様はいかがでしょうか。
レヴィアス 田中代表:
画像認識や音声認識などは弊社が開発している中でも特に重要なものです。弊社としては日本の社会やマーケットの課題、人口問題といった大きな問題を解決していきたいと考えています。その中で経済発展に寄与できるものとして、セキュリティトークンに着目しています。今眠っている資産が流動化するだけでも、経済が発展して、いくつかの課題の解決の糸口になるはずです。弊社はスタートアップとして少数精鋭で、皆様とオープンイノベーションで協力してマーケットを大きくしていきたいと考えています。
いかがだっただろうか。両者ともAIという領域に取り組んでいるが、SMN株式会社はRTBのための高速の価値判断、レヴィアス株式会社は個人認証やデータガバナンスといったように、応用領域に違いが見られた。だからと言って両者に共通点がないというわけではない。方向性は違えどAIを活用することによって、人間が今まで以上に力を発揮できるような世界を目指しており、SMN株式会社はAIを活用するための課題を発見する人材教育にも力を入れている。互いの技術を提供し合うことでより良い社会につながっていくのだと感じた。今後の両者の取り組みに注目したい。
インタビュアー:ルンドクヴィスト・ダン
執筆:塚田愼一