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高齢化社会で求められる遺言状や遺産分配のDXとは / 終活のこれからを考える株式会社レヴィアス 代表取締役 田中慶子 / 取締役 樋渡智秀
株式会社鎌倉新書 代表取締役会長CEO 清水祐孝

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DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞いたことがあるだろうか。全てのモノがインターネットに繋がり、お金はデジタルに変化し、人工知能が社会インフラを支える、そんなデジタル化された時代が到来することを予期する概念だ。

全てのものがデジタル化されるという潮流は、年々強くなっている。VentureTimesは、様々なベンチャー企業の代表者を取材している中で、このDXの波を強く感じてきた。どの企業もDXを念頭におき、近い未来に対してどのような事業の在り方があるのか、模索を続けている。
そこで弊社は、DXについて、各業界をリードする企業がどのような取り組みを行っているのかを取材し、未来へ向けての考察として読者にお届けする。

本企画では、DXの最前線に立つゲストとして、AI、FinTech、ブロックチェーンなど先進技術の開発を行うレヴィアス株式会社の代表取締役である田中慶子 氏と 取締役の樋渡智秀 氏が、様々な領域でトップを走る企業の代表者様と今後のデジタル化社会について語り合う。

今回は「大きい会社でもなく、儲かる会社でもなく、本当の意味で社会に役立つ『終活インフラ』を目指す」という理念のもとで葬儀・お墓・相続などの終活に関わるサイト運営・情報サービスの提供を行う株式会社鎌倉新書 代表取締役会長CEO 清水祐孝 氏との対談を実現。

社会の構造が変化するにつれて複雑化した葬儀や相続のサポートを行う同社が、20年以上前からいち早くインターネットを活用した背景や、少子高齢化社会で表面化してきた問題を技術でどのように解決していくのかという議論が行われた。

※本インタビューはオンラインにて行いました。

株式会社鎌倉新書:終活にまつわるコンテンツサポートを展開

記者:
本日はよろしくお願い申し上げます。それではまず、株式会社鎌倉新書清水会長より、御社の事業内容をお教えいただけますでしょうか。

鎌倉新書 清水会長:
株式会社鎌倉新書会長の清水です。よろしくお願いします。私どもの会社は終活、つまり人が人生を終えるという局面において、多くの方が初めて体験する葬儀や相続などを、ご不安なく進められるようお手伝いをしています。葬儀、お墓、お仏壇などは人が亡くなって初めて利用を検討します。洋服や食料品のように何度も買うものではなく、人生で一度きりの買い物です。また値段も安くはないので何を買ったら良いのか、誰から買うのか、いくらが適切なのかの情報は多くありません。そこで、私たちはインターネットを通じて情報を提供し、お客様と事業者様をおつなぎするサービスを展開しています。

当初は葬儀、お墓、お仏壇が中心でしたが、その後の相続の手続きを教えて欲しい、遺産分割の専門家を紹介して欲しい、両親から相続した田舎の不動産を売りたいといったお声をお客様からいただくようになりました。今までお手伝いしてきた葬儀、お墓、仏壇は人生における課題のごく一部だと気付きまして、2年ほど前からは相続、今年に入ってからは介護、保険、不動産までサービスを拡大しています。

コンセプトはお客様のご状況を細やかにお伺いし、寄り添うことで、適切な事業者様とおつなぎするというものです。人々が悔いのない人生を生きるためのお手伝いをし、終活のインフラとしての役割を担いたいと思っています。

記者:
終活にまつわる情報やコンテンツを提供し、該当業者とマッチングまでできるポータルサイトを運営されているということでしょうか。

鎌倉新書 清水会長:
そうですね。もう少し詳しくお話すると、鎌倉新書は社名の通り仏教書籍の出版社として創業しました。私は創業者の父に頼まれて入社し、入社後は新しい事業をやる事になり、そのうちの1つがインターネットでした。当初は出版業で培った葬儀やお墓のしきたりやマナーを掲載するサイトでしたが、仏教書を販売していた関係で、寺院やご住職とご縁があり、ポータルサイトの運用ができるようになりました。2015年には株式市場にも上場しております。しかし、先ほど申し上げた通り葬儀やお墓、仏壇は終活領域の一部に過ぎないと気がつき、相続や介護、不動産、保険など様々な事業を展開しています。

レヴィアス株式会社:ブロックチェーンやAIで簡単な手続きを実現

記者:ありがとうございます。それでは続いて、レヴィアス様の事業をご紹介いただけますでしょうか。

レヴィアス 樋渡氏:
弊社はレヴィアス株式会社と申しまして、2018年に創業したベンチャー企業です。弊社ではブロックチェーンやAIの研究、受託開発をしており、主に金融領域にフォーカスしています。金融という領域は、何事も煩雑な紙ベースの手続きがあり、流動化されていない資産が多く存在していますが、弊社が現在開発している「J-STO」というプラットフォームを活用する事で簡単にオンラインで資産移転の手続きを行えるようになり、その結果、流動性が生まれ、利便性が向上できるように取り組んでいるところです。

是非、鎌倉新書様のご意見を伺いたいテーマがありまして、それはブロックチェーン技術の遺言状への活用です。ブロックチェーン上に遺言状を保存すれば、改竄不能な形でご遺族の方だけが参照できるものを発行できます。例えば、結婚証明をブロックチェーン上に記録している事例もあります。重要なことは、今まで書面で残していた遺言状をブロックチェーン技術を用いることによって、オンラインで参照でき、且つ第三者による遺言の改ざんを防ぎ、秘匿性のある遺言を残すことができるようになると考えています。遺言状は、例えば公証役場に行って煩雑な伝統的な手続きを行うことも必要ですが、今後はDXの流れでデジタル化できるのではないかと考えています。

ブロックチェーン技術を活用した遺言状のあり方

記者:
ありがとうございます。清水会長はブロックチェーンを活用した遺言状のあり方などをお考えになったことはございますか?

鎌倉新書 清水会長:
ブロックチェーンに詳しくはないのですが、樋渡さんがご提示されたようなことが必要になってくると思います。例えば、人が亡くなると死亡届を出すだけでなく、社会保険事務所など様々なところに書類を出さなくてはいけません。また銀行口座を閉じる作業等、ご遺族がやらなくてはいけない手続きは50以上あります。仮に90歳のご主人が亡くなって、残された88歳の奥様が全ての事務作業をできるかというと難しいです。そのような部分は新しい技術によって解決できるのではないかと考えています。

ブロックチェーンに知識があるわけではないのですが、技術の活用によって課題の解決ができるという確信はあります。私のような役職の人間は、社内でも長期的な視点を持ったアイデアを温めて、実行するのが役割だと思っています。レヴィアス様ともご一緒してより便利な形を実現できたら嬉しいです。

記者:
今後鎌倉新書様が取り組まれようとしている不動産や相続にまつわるサービスは、ブロックチェーンが活用されやすい領域ですね。住宅大手の積水ハウスが賃貸契約においてブロックチェーンを活用するというニュースもありました。

レヴィアス 田中代表:
葬儀を執り行う世代は入れ替わっていくので、若い世代がお葬式をどのようにアレンジするかがポイントになると思います。若い世代はデジタルリテラシーが高いので、アナログからデジタルに変化する動きがあると思います。貴社のHPを拝見したのですが、24時間365日カスタマーサポートをしておられ、顧客満足度が高いと伺いました。貴社は葬儀業界において顧客満足度ナンバーワンのサービスを提供していて、歴史もあります。大手企業も参入し始めていますので、いつかはどこかの企業が葬儀業界のデジタル化をするでしょう。既に実績もある鎌倉新書様がデジタル化を推進するのは業界全体にとって大きな一歩になると思います。

私も経験があるのですが、人が亡くなると遺族の方はただでさえショックを受けていて、判断もうまくできません。そこを人がサポートして、暖かい手を差し伸べてくれたらとても助かります。人がやらなくて良いことはAIなどに任せてしまえば良いわけです。既に実績のある貴社が生前契約や遺言状をブロックチェーンを活用することで改竄できないようにして、効率化できるということを打ち出すだけで話題になると思います。相続などとブロックチェーンは親和性が非常に高いはずです。

鎌倉新書 清水会長:
そうですね。遺言は自筆でも良いのですが、家族内で隠してしまったり改竄されたりしてしまう事もありますので、ブロックチェーンで改竄できなくなると良いですね。
デジタル化できるところは徹底的にデジタル化して、人が担うべき部分と切り分けられると、これからの高齢化社会で大きな需要があると思います。

レヴィアス 田中代表:
私の親族がなくなったときも、遺言の件で揉めたことがあります。このときに遺言がしっかりと残っていることの重要性を痛感しました。

鎌倉新書 清水会長:
人が亡くなると、人の醜い部分も出ます。そうならないように、準備しないといけないですよね。
戦後の日本はまだまだ一次産業が中心で、農家に生まれると農家を継ぎ、親元を離れても近くに住んでいました。そのため「後のことをよろしく」という口約束でも問題はありませんでした。しかし、第二次産業、第三次産業と多様化し、人の移動が容易になり、親の住む場所と子供の住む場所が離れてしまうと、親の情報が何もわからないのです。数年に一回帰省するだけだと、親の預金がどこの銀行にあるか、現預金意外にどのような財産があるのかも把握できません。高齢化が進んでいるから終活が進んでいるというよりも、社会が変化した結果として親が終活をしておかないと子供が困る時代なのです。時代の変化が終活を必要にしています。そこにブロックチェーンを活用した改竄できない遺言状や、煩雑な相続プロセスをシンプルにするテクノロジーが導入されると、大きな需要があると思います、

鎌倉新書は出版社ではなく情報加工会社

記者:2000年頃に紙からウェブにコンテンツを移行されたと伺いました。それも清水会長が率先していち早く実行されたのですか?

鎌倉新書 清水会長:
はい。出版をしているときに一つの気づきがありました。お客様は本を買ってくださるわけですが、紙とインクでできたものが欲しいわけではなく、書いてある情報が欲しくて買っているということです。売っているのは情報であって出版物ではない。そうであれば届け方は出版に拘らなくても良いのではと思い、インターネットに注目しました。それからは、社員にも鎌倉新書は出版社ではなく「情報加工会社」だと伝えています。インターネットが普及し始めた20年前に、これは情報を届ける道具として役立つのではないかと考えて今日の事業につながっています。

記者:
出版社からウェブのプラットフォーマーに変化されたのですね。まさに、技術を取り入れて次世代の形を実現されたお手本ですね。

新しい技術にいち早く取り組む難しさ

記者:
コロナウイルスの影響でDXが進む中で、DXをいかに取り入れるかという課題は、鎌倉新書様がこれまで歩んでこられた軌跡にヒントがあると思います。貴社が2000年ごろから先駆けてウェブを導入するにあたって、困難等はありましたか?

鎌倉新書 清水会長:
そうですね、困難はありました。ウェブを始めた年から何年も売り上げが出ませんでした。私は世の中が変わることを見越して、ウェブを扱える人材を採用し、ウェブ事業を進めましたが、当時は出版事業から得られる利益をウェブ事業に充てると言う状態が何年も続きました。そうすると出版チームとウェブチームで軋轢が生じる事もありました。しかしそこで逃げていたら今日のお話ができる機会もなかったと思いますので、信念を曲げずに粘ってきてよかったです。

記者:
なるほど。そのように過酷な状況を乗り越えられた貴社は、更なるDXを推進する下地をお持ちだと思います。レヴィアス様は金融業界にデジタル化をもたらすべくご尽力されていますが、やはり業界との摩擦は大きいでしょうか?

レヴィアス 田中代表:
業界もそうですが、企業様の中においても、ご理解いただけないことが多々あります。しかし、私たちは未来を想像し、これから生じる波に乗らなければいけません。当然今は様々な課題や軋轢も多いですが、少しずつ理解が進んでいると感じます。

ブロックチェーンやAIはあくまでも道具でしかありません。それを使って世に何を出せるかが重要です。システム会社でブロックチェーン使っているからすごいと言うわけではなくて、社会に実装して皆さんに便利に使っていただけることこそが一番のポイントです。

最後にひとこと

記者:ありがとうございます。レヴィアス様と鎌倉新書様のコラボレーションで、業界全体を巻き込むようなサービスができるのではないかと感じています。

最後に今後の抱負をお伺いできますでしょうか。

レヴィアス 樋渡氏:
とにかく人の手を煩わせない工夫や、煩雑な手続きをブロックチェーンやAIで簡略化していき、イノベーションを起こしていきたいと考えています。これは10年後とかではなく、数年間というタイムラインで結果に結びつけたいですね。

記者:
ありがとうございます。それでは清水様からもお伺いできますでしょうか。

鎌倉新書 清水会長:
もともと出版社からスタートしてインターネット中心のビジネスに変わりました。インターネットを導入してビジネスモデルを変えたのが最初のステップだとすると、次のステップはお客様の声を聞いて、データを活用し、幅広い領域へサービスを展開する「終活インフラ」になることです。お墓や葬儀だけだったのが、不動産から保険までサービスを広げました。まだスタート段階なのですがデータを活用して、データを価値に変えていき、お客様に利便性をご提供できるようになりたいと思っています。

記者:ありがとうございます。

記者まとめ

いかがだっただろうか。少子高齢化社会が加速するにつれて、終活領域はますます重要になってくるテーマだと感じた。ただでさえ身内が亡くなってショックな時期に、人の温かいサポートを提供し、人がやらなくて良いことは技術によって解決するというアプローチは、今後ますます必要となるだろう。まさに、人と技術の共存が試される領域だ。両社の今後の動向に注目したい。