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課題は技術ではなく、企業や個人の合意形成 / DXの未来を語るレヴィアス株式会社 代表取締役 田中慶子
日本通運株式会社 執行役員デジタルプラットフォーム戦略室担当 兼 デジタルプラットフォーム戦略室長 戸田晴康

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DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞いたことがあるだろうか。全てのモノがインターネットに繋がり、お金はデジタルに変化し、人工知能が社会インフラを支える、そんなデジタル化された時代が到来することを予期する概念だ。

全てのものがデジタル化されるという潮流は、年々強くなっている。VentureTimesは、様々なベンチャー企業の代表者を取材している中で、このDXの波を強く感じてきた。どの企業もDXを念頭におき、近い未来に対してどのような事業の在り方があるのか、模索を続けている。
そこで弊社は、DXについて、各業界をリードする企業がどのような取り組みを行っているのかを取材し、未来へ向けての考察として読者にお届けする。

本企画では、DXの最前線に立つゲストとして、AI、FinTech、ブロックチェーンなど先進技術の開発を行うレヴィアス株式会社の代表取締役である田中慶子 氏と小町博幸 氏が、様々な領域でトップを走る企業の代表者様と今後のデジタル化社会について語り合う。

今回は1937年の創立以来、モノを運ぶことを通して、人、企業、地域を結び、社会の発展を支えてきた、日本通運株式会社 執行役員デジタルプラットフォーム戦略室担当 兼 デジタルプラットフォーム戦略室長である戸田晴康 氏との対談を実現。

日本通運が抱える課題や、先進技術を活用した新たなトレーサビリティの必要性、そしてDXを実現する上での本質的な課題は何かという熱い議論が行われた。

日本通運株式会社: モノと情報を滞りなく届ける

記者:
本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。最初に日本通運株式会社様の事業内容や、DXにおける取り組みをお聞かせいただけますでしょうか。

日本通運 戸田執行役員:
はじめまして。戸田晴康と申します。私はNECに31年間おりまして、2年前に日本通運に入社しました。入社してからこの2年間、様々な課題に取り組む中で、日本通運は物流会社として、お客様のニーズを聞き、モノとお金だけでなく、情報の流れをつないで、滞りなく届けていくことがミッションだと感じました。当社がどのような会社かと一言でいいますと、物流を通じてお客様のサプライチェーンを滞りなく機能させ、社会を支えるサービスプロバイダーだと思っています。

レヴィアス株式会社:契約業務のペーパーレス化を促進

記者:
ありがとうございます。それではレヴィアス株式会社様からも、貴社の事業内容を教えていただけますでしょうか。

レヴィアス 田中代表:
レヴィアス株式会社代表の田中と申します。我々は2018年に設立したスタートアップのIT会社です。主にブロックチェーンとAIの受託開発をしています。デジタル化と言われる昨今でも、未だに紙と印鑑がメインとなっている日本社会での契約業務をペーパーレス化するプラットフォームを開発しています。中でもフィンテックの分野に重きをおいて研究開発を行っています。

日本通運のチャレンジ プラットフォーム化という未来

記者:
ありがとうございます。戸田様は日本通運に入社された際にいくつか課題を感じたと伺いました。

日本通運 戸田執行役員:
はい。前提として弊社の競争力の源泉は大量の貨物を全世界で取り扱っていることです。大量の貨物をお預かりし、輸送だけでなく、倉庫での保管、輸出入の代行、工場への運搬などサービスの幅も広げており、今では日本で最大手、世界でもトップレベルの力を持っています。

従来はお客様のご要望を個別に伺い、1つ1つカスタマイズして、クライアント様のサプライチェーンの一部を担うことを価値としてきました。ところがこの先、さらにサービスを充実させる中で、おのずとお客様のご要望を全部聞くことが人員的コスト的に難しくなると考えられます。従来はお取引先ごとにシステムを構築しておりましたが、個別のシステムを増やし続けるのは、お客様のご負担を考えても難しいと考えられます。

そのような背景から、アプローチを変えていく必要が生じました。お客様一社一社の課題を解決することに重きを置きながらも、それを業界全体での課題と捉えて、クライアント様ごとではなく業界別に価値を提供できるプラットフォームを構築することで、サービス品質向上とコストのバランスを実現しようと考えています。

いま最も注力しているのが医薬品業界です。しっかりとしたトレーサビリティーを持ち、偽薬の混入を回避するプラットフォームサービスが必要になると考えています。我々は物流を通して社会インフラを担う企業なので、医薬品が患者様まで安全に間違いなく届く、世の中の皆様の安心安全を担う役割を満たしていくことが社会的使命だと思っています。

記者:
ありがとうございます。クライアント様に一つ一つ対応していくよりも、ITや先進技術を活用してプラットフォーム化することで一元的に対応できるようにするのですね。
医薬品向けのプラットフォームというのは、まさにレヴィアス様も開発されているブロックチェーン技術が合いそうですが、いかがでしょうか。

日本通運 戸田執行役員:
はい。物流システムにブロックチェーン技術を導入できないかということを検討しています。

リアルタイムで医薬品を追跡して、人々の安心安全に貢献する

記者:
戸田様が先ほど仰った、プラットフォーム化という部分について、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

日本通運 戸田執行役員:
例えば、弊社が提供している物流サービスの中でも、医薬品の運送はとても繊細です。バイオ系や、再生医療系の貨物はある一定の温度帯から外れると中身がだめになってしまいますので、どのように温度と品質を維持しながら運ぶかが課題です。温度設定に加えて、途中で偽薬にすり替えられることを防ぐことも必要になります。

レヴィアス 田中代表:
医薬品がすり替えられることがあるのですか。

日本通運 戸田執行役員:
日本では少ないのですが、例えばインドやアフリカなどでは偽薬の混入率がとても高いと言われています。薬というのは高価なもので、1個で数百万円ほど、1セットで1億程度ということもあり、これは盗む側からすると大変利幅が大きいということになります。偽薬の混入をどのように抑止するかが重要ですが、どこですり替わったのかがわからないケースが多いのが現状です。薬は製薬会社からどこかの配送業者に渡り、どこかの倉庫に入り、次の業者に渡ってという複雑なルートを経由するので、偽薬の混入が判明した時点では後の祭りです。

我々が取り組もうとしているのが、まさにこの問題です。具体的には輸送物の「場所」と「温度」を5分単位で計測し、記録できる仕組みを開発しています。品質をE2E(エンドツーエンド)で担保している証拠をお示しすることでクライアント様に安心していただき、万が一の時は原因究明も行えます。こうした、品質の保証も含めて物流だと考えています。

レヴィアス 田中代表:
そのようなデータが蓄積すれば改善策も立てやすくなりますね。

日本通運 戸田執行役員:
はい。我々はモノを運ぶだけではありません。従来は品物を着実にお届けすればよかったのですが、今は運んでいるモノの品質、そしてそれを確かに維持しましたという情報がついてはじめて商品価値がつきます。そのため最終的にお客様に届く医薬品を、安心安全に届ける責任をお引き受けしているのです。

記者:
そのように輸送中の品質管理を行う際に、ブロックチェーン技術を活用することをご検討されているのでしょうか。

日本通運 戸田執行役員:
そうですね。もっと良い技術があるかもしれませんし、ブロックチェーンの中でもコンソーシアム型やパブリック型等、様々な選択肢があります。我々としては新しい技術の中でも比較的実例が生まれつつある安全なものを選びたいと考えています。

DXの課題は技術だけではなく、むしろ人々の合意形成である

レヴィアス 田中代表:
これまでも様々な方とDXをテーマに対談させて頂いていますが、どの企業様も革新的な技術をどのように社会に実装するかという課題にぶつかっていらっしゃいます。

日本通運 戸田執行役員:
やはり各企業様それぞれの立場があり、DXを導入する上でリスク負担の兼ね合いがあるので折衝が必ず起きます。その際は、大義を明確にし、監督省庁の支援を受け、そして誰もがメリットを享受できる環境を作る必要がありますが、それがとても難しいですね。E2Eでリアルタイムにトレーサビリティーを担保する技術的ハードルはもちろん高いですが、それよりも各企業様が納得してプラットフォームに参加することで、エコシステム全体にメリットが行き渡り、結果として社会全体での課題解決に繋がります。その合意形成をどのように進めるかがDXの課題です。

レヴィアス 田中代表:
仰るとおりです。様々な企業様の思いがあるので利益が相反することもありますが、そこで敵対してはうまくいきません。共に手を取り合って課題を解決する方向に向かい、全体を見ながら進めていくことが重要だと思います。お客様がサービスを使って、便利だと実感して初めて技術は実装されたと言えると思います。

日本通運 戸田執行役員:
その通りですね。

記者:
日本通運様ほどの大手でも、デジタル技術をエコシステムに導入することは容易ではないのですね。

日本通運 戸田執行役員:
そうですね、とても難しいですよ。
技術革新にはいくつか段階があると思っていまして、1段階目は効率化です。
例えば、私がNECに入社したのは1987年で田町に通勤していました。当時の田町の改札は自動改札ではなく、駅員さんが切符を切っていました。そのため、通勤ラッシュ時には駅員さんが10人必要で、しかし昼間は2人で事足りるという人件費の変動もあったわけです。この人件費変動が自動改札機の導入によって不要となりました。これは会社の経営面においては10倍、20倍の価値がある変革です。そのような効率化が1段階目です。

2段階目は今あるものを維持するための技術革新です。例えば橋やトンネルは、点検の際にいわゆる匠と呼ばれる熟練の職人さんが構造部をカンカンとハンマーで叩きながら、その状態を診断しています。しかし匠は高齢化とともに減っていて、こうした方々がいなくなってしまうと、日本はインフラを維持できなくなります。そこで、匠の方々がカンカンと打つ周波数を記録しておいて、これを自動解析できれば、100%とは言えなくても70%程度の品質を維持できると言えます。こうすればインフラの点検を続けることができ、このような変革は生産性の向上というよりも、今あるものを維持するための技術革新だと言えると思います。

3段階目はビジネスモデルの転換です。具体例としてGeneral Electric (GE)というジェットエンジンを作っている会社が有名です。GEのエンジンが搭載された航空機は飛行している間に機体のモニタリングをしていて、この部品変えないといけないですとか、この部品は変えなくてもいいですという判断をしています。
今までは万が一に備えて、エンジンの整備部品を全て空港にストックする必要がありましたが、それらの保管費用は高額です。しかし飛行している間にモニタリングしておけば、空港に到着する前にどの部分を修繕すればいいか分かるので準備ができますし、壊れる頻度が高い部品のデータが集まれば、適正に部品の在庫を管理することができます。
また、整備はエアラインの整備士が行うので、手順が同じ方が効率がいいですね。そのプロセスの標準化もGEは手掛けています。製品によって手順が異なってしまうと、航空機メーカーがエンジンをGE社製から変えようとする際、整備士が新たな手順を覚える必要があり、負担が大きくなります。
そのため、プロセスの標準化を行うことで、ある意味でマーケティング効果もありますし、必ずしもエンジン導入の際に一括で費用を頂くのではなく、1フライト毎に費用を頂くことも可能になってきます。
これがビジネスモデルの転換につながる訳です。

そして今回のテーマであるDXは、そのさらに上の段階になると思います。
社会共通の基盤としてみんなが得する段階です。
テクノロジーはいずれにしても起こるので課題ではなく、導入する各企業や個人がどのように互いの思惑を超えて合意を得、リスクをチャンスに変えるかが課題となります。

レヴィアス 田中代表:
妥協案も必要となってきますね。

日本通運 戸田執行役員:
DXという言葉はテクノロジーの話だと思われがちですが、むしろ合意形成こそが重要です。例えばブロックチェーンを使って全員が元帳を持つということは一昔前には考えられませんでした。しかし、今は技術が進歩してサーバーも早くなり、ブロックチェーンが実現されています。テクノロジーをどのように活用するかに加えて、どの程度まで各企業・個人がリスクを引き受けてよりよい社会を作っていくのかを決めることが、最も難しいのです。

レヴィアス 田中代表:
そうですね。現実社会には様々な規制や利権もあります。そのような力関係を超えなければ、技術が真に導入されることはありません。

記者:
DXは技術に関する動きだと思いがちですが、技術は放っておいても発展するものであり、むしろどのように社会がそれを現状課題解決につなげるかが、本当のDXの課題だということですね。

最後にひとこと

記者:
それでは最後に一言、両社様の今後の抱負を伺えますでしょうか。

レヴィアス 田中代表:
弊社は先程も申し上げたとおり、スタートアップ企業でして、5年後、10年後までにユニコーン企業になるということを社員全員が掲げております。ベンチャーだからこそ大手企業にはない発想や、スピード感を持って、チャレンジしづらい領域にチャレンジできることが強みです。これからも様々な形でフィンテック業界にソリューションをもたらし、社会に貢献していきたいと思っています。

日本通運 戸田執行役員:
私の抱負は「世の中の役に立ちたい」ということです。それはNECに在籍していた時から変わりません。

日本通運はモノを運ぶということに関して大きな役割を担っている企業です。社員の皆様はひたむきで真面目です。我々が輸送するモノは間違いなく品質が保たれ、確実に届いているという自負を持っています。例えば日通は、風力発電所の風車の輸送据え付けで国内トップシェア、新幹線は誕生以来、輸送を行ってきました。
日々の生活に必要なインフラを提供し、皆様の生活を支える基盤の一翼を担わせて頂いております。そのことが私たち日通の達成感につながっています。

また我々は、ここ1,2年で医薬品業界に対してエンドツーエンドで輸送の品質を担保するという取り組みを始めました。偽薬などが混入しないようにして、最終的に世の中の健康と安心に少しでも役立つことができれば、これ以上嬉しいことはありません。

願わくば変革を起こし、パラダイムを変えていくような新しい人材を育て上げたい。育てると言うと大げさですが、私の生き様を見ていただいて、付いて来てくれる人が出てくれれば良いなと思っています。

記者まとめ

いかがだっただろうか。日本通運株式会社はこれまでの「モノを運ぶ」ということに加えて、輸送の品質を維持するための新たなプラットフォームを開発しようとしている。医薬品など我々の生活に直結するものが、より安心安全に、適切なコストと労力で輸送されることは、縁の下の力持ちとして、DXが活かされるべき分野だろう。しかし、DXは技術だけでなく、むしろ人がこれをどう導入するかが鍵であるという指摘は、DXの核心を突くものだと感じた。コロナウイルスの影響でDXが加速する中で、本当に必要なことはなにか。改めて足元を見直す必要に迫られるような議論であった。今後の両社の動向に注目したい。