規模拡大へIPOは必然の結果
オールアバウト社長・江幡哲也氏の様々なメディアでの発言を読むと「ビジネスプランの筋の良さ」「世直し」がキーワードのように登場する。同社の核をなす言葉のようだが、真意は何だろうか。江幡氏が言及したのは、良い会社とは何か、良いサービスとは何かという普遍的な経営課題である。
「持論として、長くつづく会社、長くつづくサービスだと思っている。この先の大きな環境の変化を見立てて変化に対して、価値を提供しつづけられるコアとなる力をつけることが重要だ。ここに着目してサービスを設計すれば、多少の変化があっても、長く世の中に役立ちつづけられる。そんな考え方で経営をやってきた。」
継続性を「ビジネスプランの筋の良さ」と表現したのだ。江幡氏がオールアバウトを設立した2000年は、ブロードバンドが登場した年だった。個人がインターネット上で情報を発信し、情報があふれかえる時代になってゆけば、いずれ信頼できる情報や、それを創り出す人の必要性が普遍的につづく。そう見立て、この状況に刺さるサービスを志向し、総合情報サイト「All About」を開発したのである。
長くつづくサービスに育てるには規模を拡大し、多くの人々に影響を与えつづけることが求められる。その手段として資金調達が必須で、江幡氏は「IPOは必然的なステップだった」と振り返る。
同社がJASDAQに上場したのは2005年9月13日だった。いかにもリクルート出身者らしい革新性に富んだ事業と、上場日が郵政解散で自民党が大勝利した日の2日後というタイミングから、大きくクローズアップされた。
一方「世直し」とは何を指し示すのだろう。江幡氏はリクルート社で様々な新規事業を立ち上げる過程で「青臭い思いを強くもつようになった」。国家と企業が中心の社会システムの行き詰まりに危機感を覚え、個人の自立が焦眉の課題であると思ったのだ。
「オールアバウトは個人の自立、つまり個人が活躍するフィールドをつくる会社でありたい。活躍している人を見て“自分もできる”と気づいてほしい。活躍している人たちがもっている現場の知恵とか知見をオープンにすることで、知恵がついて自立を促せるとか、自分の足で立って考えるとか、そういうことを2000万人や3000万人に対して影響を与えると、日本も変っていくだろうなと……」
All Aboutに登録する「ガイド」と呼ばれる専門家は約900人。提供している情報は約1300分野。月間の総利用者数は約3200万人で、もっとも多い月には3800万人に達した。利用者の中心は男女ともに40歳前後である。これだけの人数に「知の流通を図れている」と江幡氏は受け止めている。
ガイドへの登録によって活躍の場を広げた人も多い。専門家としての格を上げたり、独立を果たしたり、主婦がガイドになってTV・新聞などの多数のメディアに登場するなど、All Aboutは知を扱う人材の育成インフラとしても機能している。
「多くの方々が、それまで知らなかったことをAll Aboutを読むことで知ることができたという意味で、知のプラットフォームとして、世直しの一端を担っているのではないだろうか。」
経済ジャーナリスト
小野 貴史