アイスタイルの創業メンバーで取締役を務める山田氏が立ち上げようとしていたのが「週刊コスメ通信」で、配信前に登録した女性が500人以上もいた。まだメルマガの黎明期にもかかわらず、それだけの希望者を集めたことに吉松社長は驚く。さっそく化粧品の市場を調べてみると、広告宣伝費に年間3400億円も充てられていることがわかった。「そのうち1%を取れたら34億円になります。そこで『コスメ』でドメンインをチェックをすると、意外にも使われておらず、すぐに『コスメ・ドット・ネット』を登録しました」と語る吉松社長は、ゴールデンウィークの連休を使って事業計画書を一気に書き上げ、ゴールデンウィーク明けには上司へ辞意を伝えた。
そして7月に資本金300万円の有限会社としてアイスタイルを創業し、12月にアットコスメをオープンさせたのだ。さらに翌年1月にベンチャーキャピタルから3000万円の資金を調達し、社員も増やして「さあ、これから」というとき、なんと逆風が吹き始める。ITバブルの崩壊が始まったのだ。「それまで1億円なら1週間で用意しますよといっていたベンチャーキャピタルが、手のひらを返すように『キャッシュがあるうちに会社を整理しましょうよ』といってきました」と、吉松社長は振り返る。
サーバーなどへの投資で5月に計画していた3億円の資金調達も消し飛んだ。00年6月期の売上高はわずか94万円。給料の支払いもままならぬような厳しい状況の中、。ありとあらゆる金策の行脚を続けるようになっていた吉松社長は、知人から九州にいる投資家を紹介され、山田氏と2人で訪ねた。
「お会いした投資家の方から『何をやるんだ』と聞かれ、『化粧品の情報をユーザーに提供したいのです』と答えると、今度は『どうやって』と尋ねてこられました。『インターネットを使ってです』と答えると、しばらくしてまた『何をやるんだ』と聞いてこられます。そして、あらかじめ用意していた資料を一度も開くことなく、そうした禅問答のような話しがお昼過ぎから深夜まで続いた後、投資家の方は『わかった』と一言いって、9975万円の小切手を渡してくれました。条件は一切なしで、本物のエンジェルはこういう人なのだと心の底から思いました」