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マーケットデザインカンパニーとして口コミ情報をベースに化粧品市場を変革 / 熱中の肖像インタビュー後編株式会社アイスタイル
代表取締役社長/CEO 吉松 徹郎

  • feedy

最大手の資生堂に営業の照準を合わせたワケ

個人投資家からの資金調達でアイスタイルが息を吹き返すのと同時に、吉松徹郎社長は化粧品会社への広告営業に本腰を入れて取り組み始める。「それまではアットコスメの立ち上げや、そのコンテンツの拡充など、ビジネスモデルの構築を先行させていました。たとえ赤字になっても、資金調達のメドがいくらでもついたからです。しかし、ITバブルが崩壊して、自分たちの力で立っていくことが求められました。そこで狙いを定めたのが、最大手の化粧品会社である資生堂だったのです」と吉松社長は語る。

当時、まだ野のものとも山のものともわからない口コミサイトへの広告の出稿には、どの化粧品会社も慎重だった。だが、難攻の業界トップを落とせば、他社も「それなら当社も」と、こぞって賛同する可能性が高い。アットコスメのビジネスモデルを盤石なものにするのには、そうすることがベストのプロセスと吉松社長は判断したのだ。そして何度も粘り強く資生堂へ説明に通うなか、1人の担当者が理解を示してくれ、取引がはじまった。「その結果、いまでは国内のほぼすべての化粧品会社と、何らかの取り引きがあります」と吉松社長は話す。

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ただし、ユーザーの口コミサイトとなると、クライアントである化粧品会社にとっていい評価だけが集まるとは限らない。そこで吉松社長は「たとえ低い評価であっても、それはユーザーの期待値に届いていないことの表れです。目をそむけるのではなく、むしろ評価を高めて売れる化粧品に育て上げるのに役立ててください」と説得して回った。その一方で、意図的な悪口や不審な投稿はしっかりと監視をし、削除した。そうやって口コミというマーケティング情報をベースに化粧品市場そのものを変革していく、ユーザーとクライアントの双方にとってメリットのあるサイトしてのポジションを確かなものにしてきた。それゆえ吉松社長はアイスタイルを「マーケットデザインカンパニー」と標榜しているのだ。

さらに、そうした考えを一歩前進させたのが、07年3月のルミネエスト新宿での直営店舗「@cosume store(アットコスメストア)」のオープンだ。当初は「いままで小売の経験もないのに、化粧品販売の世界を甘く見ているのではないか」など、周囲から猛反発を受けた。しかし、吉松社長は「アットコスメでの評価と化粧品売り場の棚割りが必ずしも一致しない状況がありました。それであれば、ユーザーの声を反映した化粧品店を自ら作り、実際に売れることを証明したかったのです」と語る。売り場面積70坪ほどの同店だったが、現在では年商10億円以上を稼ぎ出し、化粧品専門店で日本一売れる店舗に踊り出た。いまでは直営で8店舗を展開して、収益の大きな柱になっている。

競合をつくらない環境の整備を重視

アイスタイルは08年2月にヤフーとの資本・業務提携を強化しているが、これは化粧品のレビューにヤフーが力を入れることを察知した吉松社長の〝弱者の戦法〟によるものである。「競合と戦う武器を新たに揃えることよりも、競合をつくらない環境を整えることの方が重要です。当社のデータベースをヤフーに活用してもらえれば、向こうも余分な投資が省けるうえに、クライアント各社も窓口が一本化されて都合がいい。近江商人のいう〝三方よし〟というわけです」と吉松社長は笑みを浮かべながら話す。

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その吉松社長がいま力を入れているのが、昨年10月に発表した「ビューティプラットフォーム構想」のなかの「BID」の展開だ。これは「BeautyID」の略語で、美容事業者や専門家などに与えられるIDのこと。それを取得した事業者はアイスタイルのプラットホームで自ら情報を発信できるほか、顧客とコミュニケーションをとったり、業務管理もできるようになっていく予定だ。結果、アイスタイルの事業の裾野も一気に拡大していくわけだ。また、生活インフラが整い、女性の社会進出が進んでいる、中国やフィリピンなどのアジア新興国での事業展開にも力を注いでいて、「美容先進国であり、高品質のブランドを持つ日本の化粧品の強みが存分に発揮されていくでしょう」と吉松社長は期待を寄せる。

そして最後に、12年3月に東証マザーズ市場でIPOを実現し、同年11月に早くも東証1部への上場を達成した吉松社長は、起業を目指す後輩にたちに向けて、「ルールメーカになるチャンスが増えています。目先の小さな利益を追うのではなく、市場の仕組みを変えるような大きな発想を持っていただきたい。そうすれば、いくらでもチャンスがあることに気づくはずです。そして、IPOにも果敢に挑戦していってほしいと思います」との力強い言葉を贈ってくれた。

インタビュアー

株式会社KSG
眞藤 健一