定量分析のインフラ構築に商機見出す
1990年代後半、金融ビッグバンの真っ只中にいたゴールドマンサックス証券マネージングディレクターの中村清高氏には、ITによって不動産市場にもビッグバンが到来することが見えていた。「我々はこの流れを傍観するのか、それとも流れに飛び込むのか」。中村氏は、デスクが隣りだった前野善一氏に語りかけた。
中村氏は、不動産業が情報産業に変質することを確信していたのである。
「実需エコノミーとして規模の大きい不動産は、速度は遅いが金融と同じ道を辿るだろうと考えていた。しかも、不動産はREITの登場で国境を越えて流通するようになった。
この分野でネットを使って情報流通の鮮度と速度を上げたり、即時性を確保できたりすれば、社会のインフラを提供する事業をつくれるのではないだろうか」。
さらに、通信インフラが不動産事業者に提供する利点にも着目していた。
「多くの人たちに鮮度が良くて見やすい情報をあまねく伝え、ユーザーの志向性も解析すれば、不動産会社は従来の営業マンの経験に基づいたカンや匂いでなく、定量分析に基づいた効率的なマーケティングができる」。
こうして流れに飛び込むことに決めた2人が、いい生活を設立したのは2000年である。中村氏が社長、前野氏が副社長に就任し、この体制は2006年の東証マザーズ上場を経て、現在に至っている。
2000年当時のネット環境は速度・容量・通信料に難があったが、通信自由化にともなって環境が改善され、2000年代前半には同社の事業インフラが整った。しかも「不動産会社もシステム化の必要性を感じはじめていた」(中村氏)。情報産業化の芽が見えたのである。
同社が開発した通信インフラは、物件情報管理データベースを中心とする不動産業務支援システム「ESいい物件One」で、これをクラウドで提供している。このシステムは賃貸、賃貸管理、売買の各業務の全プロセスをカバーする。たとえば賃貸・売買客付業務では物件仕入、広告掲載、案内・追客、契約、引渡し・台帳保管、売上管理、アフターフォロー。賃貸管理業務では賃借人からの家賃回収、入居者との対応履歴管理、大家への送金・報告業務を支援する。
「ESいい物件One」の導入先は賃貸仲介会社、賃貸管理会社、売買仲介会社、不動産分譲会社など約1300法人・3000店。「不動産市場でビッグバンが起きている」(中村氏)という時勢を受け、当面は5000法人をめざす。月間利用単価はサービス機能の付加とともに増加基調を辿り、2016年2月時点で1法人当たり約12万3600円。中村氏は「いまのシステムはまだ完成に程遠い。これからもカバー範囲の拡大と新規契約法人の運営店舗数が増えていることから、たぶん月額20~30万円の利用単価になるだろう」と見通している。
2016年3月期の業績予想は売上高19億5500万円、営業利益1億3000万円、経常利益1億2800万円で、増収増益基調だ。
経済ジャーナリスト
小野 貴史