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離職率を28%から3・8%に削減した「自立と議論」の企業文化を築く / 熱中の肖像インタビュー前編サイボウズ株式会社
代表取締役社長 青野慶久

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経済合理性から定着率の向上を実践して3年連続「働きがいのある会社」に選出

サイボウズは、調査機関Great Place to Work® Institute Japanが発表した「働きがいのある会社ランキング2016」で3位(従業員100~999人)にランクされた。3年連続のランクインである。「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」(社長・青野慶久氏)が同社の人事制度の方針で、就労時間や就労場所などのワークスタイルをライフスタイルに合わせて選択できる人事制度をベースに、さまざまな施策を運用している。

その成果のひとつが、離職率の低下となって現われた。2005年に年間28%にも達していた離職率は、その後右肩下がりを辿り、08年に10%を切って、15年には3・8%にまで低下した。離職率の評価については、外資系企業やリクルート社などを引き合いにさほど重視しない見解もあるが、通常は年10%を超えたら問題視すべきだろう。とくに中小ベンチャー企業にとって、離職率が高いと採用コストがかさみ、社内にノウハウが蓄積されず、しかも職場に求心力が育まれにくい。

青野氏が離職率を問題視したのは、経営効率にマイナスだからである。

「離職率が高いと採用コストや研修時間などを増大させる。そうこうするうちに、また社員の4分の1が辞める状態がつづくことは、明らかに効率が悪い。社員のために定着率を高めるという綺麗ごとではなく、経済合理性から定着率を高めることをめざした」。

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社員がモチベーションを上げるために提案
社員からは「辞める理由がない」という発言

そこで退職する社員に理由を聞いたところ、ひとり一人の理由が違っていた。たとえば大半の理由が給料への不満ならば、給料を引き上げれば解決できたのだろうが、家庭の事情、労働時間、会社の所在地、他の仕事への関心など千差万別だった。青野氏は「そうであれば、ひとり一人の事情を踏まえて人事制度を設計するしかない」と考え、社員から意見を募ったところ、じつに多様な意見が出た。

産休を長く取りたい。残業をしたくない。短時間勤務で働きたい。週3日しか出社したくない。在宅勤務をしたい。基本的に出社したくない。週の半分は他の会社で働きたい――こうした意見を受け入れて制度化してゆく。傍目にはダイバーシティー経営の実践にも見えるが、そうではない。ダイバーシティー経営の動機は「会社に多様性がない」ととらえることだが、同社は「すでに十分に多様な社員が集まっている」と考えたのだ。

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「社員のモチベーションを上げるための制度というよりは、社員が自分のモチベーションを上げるために制度を提案し、実現に至っている。だから離職率が下がるのは当然である。ときどき社員から『辞める理由がない。居たいわけではないけれど』とも言われるぐらいに(笑)、不思議な感じになってきた」(青野氏)。

残業の有無、短時間勤務、週3日勤務、最大6年の育児休暇、再入社、独立支援、副業の自由化、部内イベント援助などの制度を実行しているが、制度を固定化および一律化せず「生もののようにどんどん変っている」(青野氏)。効果が認められず廃止される制度もあれば、在宅勤務のように期間限定や部門限定で試行して、効果や問題点を検証するケースもある。

インタビュアー

株式会社KSG
眞藤 健一

経済ジャーナリスト
小野 貴史