「スピードが出るままに自動車を暴走させれば、運転を誤って必ず事故が起きますよね。みんなアクセルを踏みたがりますが、ブレーキが対になっていなければ、自動車は正しく機能しません。ネットも同じです。例えば、検索エンジンを使って興味本位で他人の個人情報を調べる行為を放置すれば、プライバシーの侵害といった問題が起きることは明らかです。そうした問題を解消するITも不可欠で、ニーズが確実にあるわけです。また、サイバー犯罪を未然に防がないと、IT産業全体にもマイナスになりかねません。なぜなら、新手のサイバー犯罪が多発すると行政は慌てて規制を行うのですが、過剰な規制になりやすく、ITの自由な発展まで阻害してしまうからです。政府が規制に乗り出す前に、デジタルリスクを自主管理することが、経済界にとっても重要だと考えたのです」。
また、菅原社長は、デジタルセキュリティのような、いわばITの“派生ビジネス”にこそ、持続可能な本当のビジネスチャンスが隠れていると見る。
「米国の“ゴールドラッシュ”で生まれ、後世に残った大企業は、いずれも派生ビジネスでした。例えば、鉱山労働者向けの作業服を作っていたリーバイスは、世界屈指のジーンズメーカーに発展しました。採掘された金塊を運搬していたウェルズ・ファーゴも、全米有数の金融機関に成長したわけです」。
菅原社長の視野はきわめて広い。自社やIT産業だけでなく、常に日本の社会全体、さらには世界の動向も考えながら、経営の舵取りをしている。そもそもITベンチャーを立ち上げたのも、「東大生として、どうすれば社会に貢献できるのか」考えた結果だという。
「進路を考えたとき、これまでの東大の先輩たちは、多くが大企業や中央官庁に進んでいましたが、これからは新しい産業のリーダーを目指すほうが、日本社会の発展に役立つだろうと判断しました」。
菅原社長は学生時代、インターンは経験したものの、企業には就職したことがない。
「東大の先輩で大企業に就職した人を見ると、組織の中に入ったら、まず駒の一つになるしかない。コンサルティングファームに入った先輩も、大企業の戦略や政府の政策を左右できるといっていましたが、主役ではなく、サポーターに過ぎないわけですね。それなら、自分で組織をすべてコントロールできる経営者のほうがいいと思いました」。
まさに根っからの起業家として、「菅原社長」が誕生することになったのだ。