検索に並ぶ情報収集手段にする
PR TIMESが取り組む当面の重点施策は、潜在ニーズの掘り起こしである。従来、PR会社の主な顧客対象はメディアに選ばれるような大企業や人気企業だったが、PR TIMESは利用企業の裾野を広げつつある。ニュース発信の価値に気づく企業が増えているからで、この流れを推し進める方針である。
たとえば山口氏が「ほとんどプレスリリースを見たことがない」という美容サロン、あるいは先端的な技術を持つ町工場などが考えられるが、とくに限られた商圏での店舗ビジネスにニュース発信は有効ではないか。山口氏は「ブランディングされれば商圏外からの来店客の導線が形成され、リピーターにもなりうることに気づく企業が増えている」と実感している。
中期目標は2020年度までに利用企業数5万社、グループサイト閲覧数を月間1億PV、営業利益10億円を達成させること。その手段として、メディア関係者にとってPR TIMESがネット検索と口コミに並ぶ情報源になるように認知させる一方で、生活者が企業ニュースを求めるようにプロモートしていく。「生活者に届くニュースは事件やスキャンダルが多いので、もっと人が活躍しているニュースを生活者に届けたいと思います」。
PR TIMESの社員数は約50人。16年4月に3人、17年4月入社では5人の新卒者を採用したが、「IPOしたから安心できる企業と考えるタイプは求めていません。ベンチャー精神が必須です」と強調する山口氏は、組織運営をこう考えている。
「設立から10年以上経った今振り返ると、少数で運営していれば結果として精鋭揃いになると思います。酷な業務を与えてきたような気もしますが…(笑)」。
人材育成の方針は2点。ひとつは、社員に自分の経験を踏襲させると成長を阻害しかねないので、社員がみずから道を拓くように見守ること。もうひとつは、社員が自分の活躍できる場を自分で見つけ出すこと。この2点を徹底させれば、今後も成長を持続できると山口氏は確信している。
すでにPR TIMESはPR業界のプラットフォームとして地歩を固めたのではないか。そう尋ねたら、山口氏は「そうなれればいいなと思ってはいますが、まだそのレベルには達していません」と控えめに返してきた。
「自分たちにとって本質的に大切なものは何か。社会にとって本質的に大切なものは何か。それを事業によってどう具現化するかについて、自分に問いかけているのが現状です。その答えはまだ見つかっていません。IPOしてからはPR会社を立ち上げたいと志す方から相談を受ける機会が増えていますが、他人にアドバイスできるほど上手くいっているわけではありません」。
山口氏はけっして誇大な発言をせず、ひと言一言を選ぶように、ていねいに語りつづけた。
経済ジャーナリスト
小野 貴史