クリエーターの力を引き出すには、何よりも仕事を心底楽しみ、ひたすら没頭できる環境を形成するかどうか。その成否が決め手になる。原尾氏が掲げる組織運営のコンセプトは「仕事好きの楽園」である。大企業出身の原尾氏は「一般に大企業では仕事好きな人は浮いてしまう」と指摘し、同社の職場環境の反面教師と捉えている。
「仕事は収入源と割り切り仕事以外に楽しみを見出すのも、ひとつの考え方だと思います。しかし当社では、思う存分仕事に没頭でき、仕事を通じて仲間を増やしたり自分を成長させられる環境づくりに取り組んでいます」。
たとえば毎月オフィスで社内パーティーを開き、さらに毎年社員旅行も実施して社員同士の懇親を図っている。「若い世代は個人主義と言われていますが、実は絆を求めていることがわかります。会社は単に個々人が仕事をするだけの場ではなく大事なコミュニティでもあります。」(原尾氏)という。
同社の足跡を俯瞰すると、その時代の最先端のメディアを捉え、そこに対してニーズを先取りするサービスを提供するという一貫した方針で、時代に合わせた変化を遂げている。原尾氏の経営観は「目的と手段の分離と明確化、大事なのは目的と手段を混同しないことです」。独立を相談してくる若いビジネスマンにも「そもそも何がしたいの?」と問いかけている。
「やりたいことを明確にすればそれを実現する手段も自ずと見えてくる。起業はあくまで手段です。やりたいことを実現する手段として、場合によっては大企業の一部署で取り組んだほうがよいですし、起業しても個人事業の規模で取り組んだほうがよいかもしれません。」。
一方、すでに起業した人には、時々立ち止まって「そもそも何がしたかったんだっけ?」と振り返ることを薦める。周囲に流され目的と手段が入れ替わっていたりするからだ。
起業で問われるのは、何が儲かるのかではなく、何をやりたいのか。これがビジネスモデル以前のステップであることを、原尾氏は熟知している
経済ジャーナリスト
小野 貴史