入居者はスマホで来訪者と会話
クラウドファンディングの少額投資、安定性、透明性。これらの要素は出資希望者を文字どおり駆け込ませ、第1号ファンドは約20分で募集が完了し、第2に至っては約1分で完了した。第3号では初の新築物件ファンドを組成したところ、募集総額5040万円に対して、約3倍の1億5390万円の応募が集まった。この4月には第4号として5400万円を募集し、今後は全国14都市の新築アパートを中心に、民泊物件や海外不動産も運用資産に組み込む方針である。
古木氏は、TATERU事業とのシナジーについて「クラウドファンディング事業ではアパート経営へのステップアップを支援していますが、すでにTATERUで取り扱っているアパート7棟を販売して、約5億8000万円を売り上げています」と評価。今後ファンド規模を拡大させる計画を立てている。
もうひとつのコンセプトであるネットとリアルの融合事業のうち、IoT事業は、これからサービスの普及に着手する。アパートの室内にタブレットを設置し、入居者が所持するスマホと連動させ、外出先からも来訪者動画を見ながら応答できる。来訪者が宅配便業者なら、その場で配達時間の予約を取り付けられる。タブレットのセントラルコントロールによって、スマホから室内のエアコンや照明の操作、侵入者などのセキュリティーチェックもできる。
だが、利便性が格段に向上する一方で、タブレット設置費用は賃料に跳ね返るのではないか。この疑問に古木氏は「検討中だが、もし賃料に反映させた場合でも月々1000~2000円程度です」。この金額なら普及のハードルにはならず、物件の付加価値として認知されるだろう。おもにTATERU事業の管理物件に勧めていくが、これもプラットフォームをもつ強みである。
一方、民泊事業では、16年12月に、全国の民泊物件にスマホやPCから予約できる宿泊プラットフォーム「TATERU bnb」の運用を開始した。収入源はマッチング手数料だけでなく、17年2月には、子会社ⅰVacationが宿泊施設向けにコンシェルジュ機能を導入したスマホのレンタルを開始した。英語・中国語・韓国語・日本語の多言語対応のコンシェルジュが、チャットで24時間にわたって、観光案内、レストラン予約、タクシー手配などを行なう。
こうした4事業を展開できるのは、リアルとネットの融合によって「不動産業界でIT化されていない業務を一つひとつIT化してきた」(古木氏)蓄積があるからだ。同社は不動産企業であり、IT企業でもある。いわば2つの業種を組み合わせた事業体である。目下、リアルとネットの融合は各業界に共通した喫緊の経営テーマだが、次の発展段階に進むには、リアルとネットのどちらでも専門企業であることが必須で、どちらかが専門外では、成長力の高い融合モデルは築けない。
同社の場合、ITエンジニア部隊が成長に大きく寄与してきたという。古木氏は「当社のITエンジニアたちはたいへん優秀です」と評価するが、処遇にも配慮している。社員289人の平均年齢は30・8歳で、平均年収は721万円と高水準。職種別では「収益の源泉を担っている」(古木氏)という理由でITエンジニアが最も高くなっている。しかもITエンジニアは人員が増え、職種別構成比は15年12月末に全社員の9・9%(21人)だったが、16年12月末には20・3%(61人)にまで拡大した。
インベスターズクラウドは出資にも意欲的で、すでに7社に計16億円を出資し、すべてIPOに向けて支援していくという。機会を改めて、この取り組みも詳しく尋ねてみたい。
経済ジャーナリスト
小野 貴史