直近4年の経常利益平均成長率は74・1%
いまもなお池袋のランドマークでありつづけるサンシャイン60が竣工したのは1978年。工事が着工したのは73年で、竣工までの5年もの間、日に日に建物が天空に向かっていく様子を、胸をときめかせて見上げていた小学生がいた。池袋で生まれ育った高山泰仁氏である。この記憶が後年になって、オンライン旅行代理業の旅工房を設立した高山氏に、躍進の舞台を用意することになる。
旅工房は2017年4月、東証マザーズに上場した。個人の海外旅行が取扱額の80%を占めるが、テロによる治安悪化の影響で、海外旅行の市況はけっして芳しくない。観光庁の調査によると、日本の主要旅行業者49社の総取扱額(国内・海外)は、16年5月から18年1月にかけて前年同月を下回っている。
この市況にあって、旅工房は17年3月期決算で売上高216億9800万円、経常利益3億1100万円といずれも過去最高を計上した。直近5年間の売上高平均成長率は18・4%、直近4年間の経常利益平均成長率は74・1%である。持続的な成長力はどのように形成されたのか。
旅工房の設立は94年。高山氏はその設立メンバーの一人だった。すでに旅行業界は大手と中小の二極分化が顕著で、既存の事業形態を後追いしても台頭を期待できない。高山氏は業界特性を分析し、当初から同業者との差異を意図した仕組みを作り上げ、競争力の蓄積に取り組んできた。それは「店舗型旅行会社とオンライン完結型旅行会社それぞれの利点を取り入れたハイブリッド戦略」である。
店舗型旅行会社に対する差別化ではインターネット上で旅行商品を販売することで①パンフレット紙面の制約を受けず、大量かつ柔軟な商品企画・掲載が可能②ツアーの自由なカスタマイズが可能③営業時間の制約なしに自宅で商品検索、 予約申込みができる④方面別組織体制により専門性の高いサービス⑤ 旅行内容のカスタマイズの要望に迅速に対応可能―などが挙げられる。
一方、オンライン完結型に対しては①航空券とホテルの組み合わせだけでなく 専門担当者が企画したパッケージツアーを掲載・販売②担当者と電話・メールで相談して決められる③専門性を活かし、複数都市訪問などの複雑な日程のツアー提案が可能―という差別化を確立した。
ハイブリッド戦略を遂行する方面別組織体制は、サービスの精度を高めた。通常、旅行会社の組織編制は企画、予約、手配と業務機能別に組織が編成され、支店が販売を担当する体制が組まれている。一方、旅工房はハワイセクション、バリ島セクション、アメリカセクションなど渡航先方面別に組織を編成し、各セクションがすべての業務機能を担う。
方面別組織体制は各業務機能の担当者間の連携をスムーズにさせ、顧客の要望への臨機応変な対応を可能にした。対象エリアへの精通度も格段に深まり、組織別に設定したKPI(重要業績評価指標)にも反映されているという。高山氏は次のように説明する。
「ハワイの好きな社員はハワイセクションというように、配属先はできるだけ社員の希望を受け入れて決めています。自分の好きな地域を担当すると、業務への思い入れが格段に違ってきて、その思いはお客様に伝わり、サービスの精度も高まってくるのです。ヨーロッパセクションならハワイの好きな社員よりもヨーロッパの好きな社員を配属したほうが、思い入れが違ってきます」
ESの向上がCSの向上に結びついたことは、先にふれた持続的な成長からも読み取れる。
経済ジャーナリスト
小野 貴史