「自己PRをしてください」などと言うように“PR”は馴染みある言葉だが、どのようなものか、実際にはわかりにくい。PRとは、一般に企業や団体が事業内容や商品・サービスを社会に認知してもらうためのパブリシティ活動を指し、広義の広告事業の一種とされている。通常の広告は、スポンサーがメディアの広告枠を買い取り、その中に宣伝したい内容を盛り込む。しかし、PRは、TV番組の中の特集や、新聞・雑誌・Webの記事の中でニュースとして取り上げてもらい、メディアを通じて、伝えたい内容を社会に広めるところに特色がある。
企業や団体にとって、PRは通常の広告と違い、メディアに広告料金を支払う必要はない。しかも、メディアという第三者のフィルターを通した客観的な情報であれば、視聴者や読者に信用されやすいという利点がある。
PR事業は、広告のカテゴリーの一つとして確立されていて、PR専門の会社がいくつも存在する。ただし、従来のPR会社は、「広報の下請けの仕事が中心でした」と、同社の西江肇司社長は明かす。つまり、企業や団体の広報活動を代行したり、リリース作成をサポートしたりするのが、PR会社のメーンの事業領域だったのである。
ところが、ベクトルは、そうしたメーンの領域だけでなく、新たな領域を拡大した。それが「戦略PR」である。広報の一環ではなく、積極的な宣伝活動の一環として宣伝予算からPRを行うというものだ。どのようなPRかと言うと、事業内容や商品・サービスを宣伝するのだが、広告枠を買い取るのではなく、メディアに番組や記事で紹介してもらうように、さまざまな仕掛けをするのである。広告料金を支払わずに紹介してもらうのだから、ニュースバリューがなければならない。例えば、TV局や出版社にこんな風にコンテンツを売り込む。知名度を上げたいクライアント企業から依頼されれば、「おもしろい経営者がいます。インタビューしてみませんか」と、クライアント企業の社長のプロフィールをメディアが興味をもつであろう切り口で紹介し、取材のアレンジをする。その結果、番組や記事でその企業が取り上げられれば、知名度アップに役立つわけだ。
西江社長が、戦略PRに取り組みはじめたころ、広告業界では「広告のスペース以外で、商品やサービスをどうやって宣伝するんだ」と言って、見向きもされなかったという。しかし、それがブルーオーシャンを見出すことにつながった。西江社長は、実は広告代理店やPR会社に勤務した経験はない。「僕は広告やPRの素人でした。かえって既成概念にとらわれなかったのが、よかったのかもしれないですね」と振り返る。