「調査データにはほとんど目を通さない。調査データから入ると街の匂い、風情、歴史、キャラなどが見えなくなって、直感がブレてしまう」。
そう話す楠本氏は、著書『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』で「カフェにおける失敗のパターン」として①“数字目標”と“風景イメージ”の乖離②地域のことを考えていない事業者論理の出店決定③直感から入らず、論理的思考を優先しすぎること―の3点を挙げている。
この3点との反対が成功のパターンと単純にはいえないだろうが、大筋はつかめるのではないか。楠本氏に尋ねてみよう。
「事業アイデアが物件から湧き出てくることが多い。そのほうが僕にとってはフォーマットを固めて展開する方法よりもやりやすい。まず僕や社員が出店を相談された物件を見て、そこが風景になるかどうか。出来上がったハコモノやメニューをイメージするよりも、どういう語らいがあるのか、誰がどこから来るのか、店を出てどこへ行くのか、その人がうちのカフェに来ることで生活がどうハッピーになっていくのか。そういうケーススタディを数十通り妄想する」。
業態に従って物件を選ぶのではなく、物件に合わせて業態を考案するのだ。たとえば2002年に東京・高円寺に出店した「Planet 3rd」の立地は、高円寺駅から徒歩10分で、歩行量調査をしたら昼間は1時間に3人しか通らなかった。
だが、周囲は住宅地で若い世帯も多い。「半径500メートルの人を幸せにしたい」という思想によって、夜間に若い人がリビングやダイニングのように使えるカフェレストランを創ろうと「Planet 3rd」を出店したのだ。売上高は初月から約900万円を上げ、目標だった月商1300万円にもすぐに達して、繁盛店になった。
経済ジャーナリスト
小野 貴史