「創業以来のメイン事業がオンライン旅行事業です。国内線航空券販売を主力として一般消費者向けだけでなく、企業向けのサービスも提供しています。2つ目が、2012年から開始したITオフショア開発事業です。現在、ベトナムのホーチミン、ハノイおよびダナンにて、総勢850名ものITエンジニアを正社員として雇用しています。3つ目が、訪日旅行事業(インバウンド事業)です。こちらは、キャンピングカーのレンタルや外貨両替、民泊、海外旅行会社への国内線航空券販売のOEM提供を行っています。4つ目が、投資事業です。約50億の枠を確保して成長性の高いベンチャー企業に投資し、バリューアップによる売却やIPOを目指しているほか、M&Aや資本業務提携を積極的に推進しています」
オンライン旅行代理店でありながら、ITオフショア開発も手掛けていると聞くと意外に思えるかもしれない。だが、吉村社長は二つの事業が密接に絡んでいると指摘する。
「オンライン旅行事業はサービス改善を進めるために、システム開発が非常に重要なファクターになってきます。そこが、ボトルネックになることが幾度となくありました。それで、自社で開発することにしたんです。最初は国内で手掛けていましたが、思い切って海外でやろうということになり、ベトナムに拠点を構えました。予想以上に開発のクオリティが高く、『これならば事業化・収益化できるのでは』と考え、ラボ型の開発サービスを提供できる体制を構築しました」
また、この二つの事業環境が似通っており、しかもそれがエボラブルアジアの経営陣の好む環境であった点も大きな要因になったという。
「僕たちが好きな事業環境とは、今はニッチな市場ではあるものの、外部環境の変化によって市場が大きく広がっていくと予想されるものです。今がニッチなだけに、圧倒的に強力な競争相手はいません。そんなプレーヤーがいない状況下で参画し、No.1のポジションを確保していくのが、当社の事業戦略です」
実際、エボラブルアジアは国内線航空券販売では業界首位に位置づけられているほか、東南アジアにおける日本のオフショア開発会社としては、最大手の地位を確保している。
そして、もう一つエボラブルアジアの大きな特徴として挙げられるのが、大石会長と吉村社長の2トップ体制だ。
「2007年の創業以来、ずっと二人でやってきました。振り返ってみると本当に良かったと思います。通常、ベンチャー企業にとっては社長が一番のリソースなのですが、エボラブルアジアにはそれが二人いるんです。強いエンジンが二つあるので、何をするにしても非常にスピーディーだといえます」
また、二人が揃っていたからこそ、IPOを実現することができたと吉村社長は強調する。その点も2トップ体制のメリットであったようだ。
「僕たちは2008年からIPOの準備に着手しました。ただ、マザーズに上場するまでは非常に苦労しましたね。期間も8年ですから、長かったといえます。二人がいたからこそ乗り越えることができたと思っています。一人だったらIPOを諦めていたかもしれません」
そうしたエボラブルアジアの経営体制も変わりつつある。近年、報酬やストックオプションを厚めにし、ハイエンドな外部人材を積極的に迎え入れたこともあって、取締役はもちろん、執行役員や部長クラスの陣容がかなり充実してきているからだ。特に、CFO(最高財務責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)、COO(最高執行責任者)となった3名の貢献度は大であるという。
2016年3月東証マザーズ上場を経て、2017年3月に東証一部への市場変更を果たしたエボラブルアジアだが、さらなる成長に向けたチャレンジにも余念がない。
「僕たちが今いるのは、いずれもかなり大きな市場です。そこにはまだまだ様々なスイートスポットがあると思っています。さらには、今後アジアが経済的にも人口的にも世界の中心になるのは間違いありません。人・モノ・お金の動きもどんどん活性化していくはずです。そこにおいて今はニッチだけど、これから大きくなっていきそうなビジネス、しかも僕たちがNo.1を取れそうなビジネスに積極的に進出していきたいですね。そのためにも、M&Aを積極的に進めていく考えです」と吉村社長はビジョンを語る。
エボラブルアジアとして、直近で最も力を注いでいるのが主軸であるオンライン旅行事業における「エアトリ」ブランドの構築だ。TVCM、Web広告、まぐまぐ会員の取り込みなどのプロモーション促進はもちろんのこと、国内旅行に強みを持つ旅行代理店の買収、海外渡航券の取扱強化など商材の拡充にも意欲的に取組んでいる。
「ブランドを作れれば、取扱高も売り上げも利益も大きく伸びていきます。何が何でもエアトリを皆が知っているようなブランドにするのが僕たちの課題です。クックパッド、ゾゾタウン、メルカリ、楽天トラベル、じゃらんといったメジャーブランドを確立したいと思っています」
エボラブルアジアが描く成長戦略がどんな成果をもたらすのか。今後も目を注目していきたい。
ライター
袖山 俊夫