冒頭、依田氏が取り上げたのは、欧米型と日本型のBNPLでは大きな違いがあること。海外では分割やクレジットカードの代用としてのニーズが高い。一方、日本ではクレジットカードよりも安心、簡単に決済ができる利便性にメリットを感じているユーザーが多いと指摘する。
「具体的には上限金額に大きな差があります。欧米では30万円前後ですが、日本では5万円前後。また、支払方法も異なります。海外はクレジットカードやデビットカード、銀行口座がメイン。日本ではコンビニでの現金決済が選択されています」
当然ながら、BNPLのポジショニングも違ってくる。欧米では分割払いが主流。支払を分割して資金繰りを良くしたいという意図が伝わってくる。これに対して、日本では既にクレジットカードが多様な決済機能を持っていることもあって、一括払いが主流だ。
米国での後払い決済の市場動向を見ると、ユーザー数や決済総額はいずれも伸びている。23年以降はそのペースが若干ダウンするものの、引き続き市場は拡大傾向にあるという。
依田氏はその理由として三点を挙げた。
「一点目は、支払額を管理しやすいこと。二点目は、手数料無料で分割払いができること。三点目が、信用履歴が不要なことです。なので、本当に手軽に利用できます」
特に、欧米でBNPLが注目されている背景には、クレジットカードに代わりBNPLを利用する消費者が増えていることとオンライン店舗だけでなく、リアル店舗でのBNPL決済比率が高まっていることがある。
だが、その一方では市場が成長しているがゆえのリスク要素があると依田氏は捉えている。
「一つは、マクロ環境の不透明化です。ウクライナ情勢や金利の上昇など、気になる要因が幾つかあります。もう一つは、法規制の動きです。特に大きな動きは、債務を蓄積している方が非常に多く出ており、国としてどうやって管理していくのか、いかに規制していくかが問われています」
続いて、依田氏は世界のBNPL主要プレイヤーについても触れた。具体的には、取扱高10兆円を超える世界最大のBNPL事業者Klarna、北米大手のaffirm、オセアニア地域を代表するafterpayとzipなどだ。
「注目したいのは、いずれも分割払いがメインであることです。また、上限金額も高いですし、4回払いであれば分割手数料も一切かからないなど、ユーザーフレンドリーな傾向が窺えるのが、欧米型BNPLの特徴だと言えます」
BNPLは成長市場であるだけに主要プレイヤーに対抗して新興勢力の動きも目立ってきている。例えば、AppleやVISA、Paypal、MasterCardなどの超大型企業がBNPLに注力し始めている。
「今後の市場展望として、こうした新興勢力の動きが気になる部分ではあるものの、先行する主要BNPLプレイヤーの中には、マクロ要因の影響もあってレイオフや地域からの撤退、事業閉鎖、新たな資金調達などのネガティブなニュースも多数持ち上がっています。もう一点、注目したいのは今後世界各国でも、BNPLに関する法規制が進んでいくのではという懸念です」
現状、日本では分割に関する法規制としてすでに割賦法があり、ある程度は管理できているが、海外では特に法規制はない。そのため、若年層の分割による多重債務が起きており、大きな社会問題となっている。今後それぞれの国で何らかの法規制に踏み切らないといけない状況にあるという。
最後に、依田氏はプレゼンのサマリーとしてポイントを以下の三点に集約した。
「一つ目は、日本型と欧米型のBNPLでは、ポジションもサービスも異なること。
二つ目は、一部撤退や事業閉鎖をしている企業もあるものの、海外ではBNPLはさらに広がる余地があること。
三つ目が、日本型BNPLも引き続き成長しており、外資系企業の参入もあり得ること。BNPLが広がることで、ユーザーや事業者もWin-Winの関係が構築されることを期待しています」
続く第2部では、NP海外事業責任者である角元 友樹氏が登壇。アジアのBNPLとNPの海外展開戦略について説明した。冒頭、角元氏はアジアにおけるBNPLの状況を語った。
「現在、アジアでは当社を含め、多くの新興企業がBNPL事業に参入しています。その背景には、ECの爆発的な成長があります。東南アジアだけに限定しても、2030年には市場規模が1兆ドルに到達すると見込まれています。日本のEC市場を遥かに上回る成長率です」
これに伴い、BNPLも今後の展開が大きく期待されている。なぜなら、アジアの新興国ではクレジットカードの保有率が10%以下と非常に低いものの、スマートフォンは一人一台以上普及しており、BNPLが次世代型クレジットカードとして重要なインフラ機能を担っていくと見込まれているからだ。そのため、今後は従来のクレジットカード発行プレイヤーだけでなく、金融機関や信販会社に加え、さまざまなプラットフォーマーがBNPLに参入してくると予想されている。事実、日本のメガバンクもインドネシアの大手BNPLプレイヤーに出資している。
そうした状況の中、なぜNPはアジア展開を推進しているのか。角元氏が着目したのは、アジアにおけるリスク管理難易度の高さであった。
「東南アジアのBNPLは、欧米や日本のBNPLとは位置付けが全く異なっています。クレジットカードは持てないが、ショッピングなどではクレジットカードのような便利な決済をしたいというニーズが強いです。それを踏まえ、当社では長年の事業展開で培ったリスクコントロール力を最も活かせる市場はアジアであると考えました」
NPのアジア展開は、18年にスタートしている。一カ国目に選んだのが台湾だ。ここでグローバル向け後払い「AFTEE」をゼロから構築した。
「台湾のEC市場はアジアでは非常に大きく、法規制的にもすぐにサービス展開が可能でした。それに、BNPLのニーズやリスクコントロールの難易度も日本と東南アジアの中間に位置しており、アジア向けのプロダクトを構築するには良い市場であると判断しました」
台湾で提供されている「AFTEE」は、面倒な情報入力は一切要らない。電話番号確認とSMS認証、決済確認の3ステップで簡単に決済できる。しかも、分割払いも可能だ。こうした利便性が評価され、台湾では2800社を超えるECサイトで導入されており、会員数も100万人を突破している。この数年、台湾でも一気に競合企業が急増してきているものの、大手店舗における実績を比較すると、AFTEEの取扱高は他社を圧倒していると角元氏は強調する。
「背景にあるのは、我々の強みです。電話番号のみで利用でき、審査通過率も96.1%と非常に高いです。リスクコントロールの改善にも力を注いでおり、支払期限から6カ月を経過した未払い率は1%水準。会員ごとの利払いリスクを正確に把握し、適切な上限金額を設定できています」
現状、台湾ではBNPLを巡る社会問題は起きていない。だが、適切なリスク管理や消費者保護に向けたメカニズムの構築は、今後もBNPL事業者には求められてくる。
「AFTEEは、しっかりとリスクコントロールできる体制を構築していますし、競合に対する強みや利益を出せるビジネスモデルも構築できています。なので、台湾については投資資金をさらに増加させ、規模拡大を加速していきたいと思っています。実は、台湾人が日本を旅行した際のオフライン決済として、AFTEEを利用した決済も準備中です」
台湾に続いてNPが2カ国目として進出したのが、ベトナムだ。23年6月にサービスをローンチ。すでに数十店舗が加盟している。
「ベトナム進出の目的は、アジア新興国型のBNPLの構築です。AFTEEの改善をベトナムで進め、新興国のニーズにあったビジネスモデルとリスクコントロールの仕組みを構築し横展開していきたいと思います。ここでも、我々の強みであるリスクコントロール力を活かしたプロダクト優位性を発揮し、スムーズなチェックアウトプロセスと高い与信通過率を両立させたサービスを提供していきます」
ただ、事業展開方針は国内や台湾とは違ってきそうだ。さまざまな新規参入プレイヤーにOEMに近い形でBNPLを提供し、NP自体はリスクコントロールを中心としたプロダクト構築に専念することを考えている。
「まずは、ベトナムでも成功させることが目標。その先もイメージしながら事業を展開していきたい」と角元氏はプレゼンを締め括った。