じっくりと経営する方針だから株式上場は考えていない
日本のコーヒー市場は拡大基調にある。全日本コーヒー協会の統計によると、2000年に39万9298トンだった日本国内のコーヒー生豆消費量は、右肩上がりに拡大をつづけて、16年には47万2535トン。17年は1~7月に27万551トンを記録した。市場拡大を見据えて、社長の丸山健太郎氏は「スターバックスなどのセルフ式コーヒーショップに次いでブルーボトルコーヒーが日本に参入して台頭していますが、当社は第三極のポジションをめざしたい」と抱負を述べる。
こうした実績に着目して、ある銀行とベンチャーキャピタルが株式上場をもちかけてきたが、丸山氏は応じなかった。「その銀行はガッカリしていましたが、じっくりと経営していきたいのです」という。第三極をめざすという意向を抱きながらも、丸山氏はスピード成長を指向していない。デベロッパーから入った大阪や京都への出店要請も断わり、出店先は通販の顧客が多いエリアを厳選するなど慎重である。
さらに丸山珈琲を公器にもっていくのか、それとも老舗企業のように、ファミリービジネスとして営々と持続させていくのか。株式上場の打診を断わったのも、この選択を検討中だからである。丸山氏の立ち位置にも着目したい。後述するが、丸山氏の足跡は急成長志向のベンチャー企業家よりも、むしろ社会起業家に類するのではないか。
「社会起業家と言われたのは今回で2回目です。最初にそう言ったのは、経営の仕組みづくりを依頼している経営コンサルタントで、『コーヒー豆の産地直送事業はNPOの活動みたいだ』と。私は若い頃から海外放浪を通して、人間や文化への関心をもちつづけてきました」
経済ジャーナリスト
小野 貴史