着眼した理由は主に5点で、この5点を解決すれば、日本一になれると勝算を見込んだのである。 第一に、野菜ブームが到来しながらも、売り手の農家に販売知識が乏しいこと。第二に、農作物は1年中同じ産地では生産できず、産地リレーの組み合わせが重要だが、産地を選定しすぎると「今日はない」など欠品リスクが大きいこと。第三に、生産者を選定しすぎると出荷された野菜のみを仕入れる“注文しない方式”を取らざるを得ず、レシピがなくとも調理のできる料理人が在籍した店でないと対応できないこと。第四に、外食企業は約100種類の野菜を仕入れるが、野菜の仕入額は仕入総額の10%程度にすぎず、一括搬送でコスト削減を図りたいというニーズに対して、産地直送では産地ごとの分離搬送になってしまうこと。第五に、市場経由の卸売業者が特定の市場との取り引きに偏重していること。 竹川氏は「市場経由の卸売り会社と産直専門の卸売り会社はあるが、私はすべてができる事業を考えた」と振り返る。 同社の仕入先は3つのルートで固めている。市場内の卸売業者から青果を購入できる買参権を取得した築地、大田、大宮、松戸、柏の5市場と、直接の仕入先である生産者が約90世帯。さらに埼玉県所沢市を中心に保有する3万坪の自社農園である。自社農園では「紅くるり野菜」「ファーストトマト」「無農薬・酵素栽培ネギ」など市場に出回らない野菜を生産している。 竹川氏は「野菜の価格が需給バランスで決まるが、自社農園では販売計画を立ててから生産できるので、需給バランスに左右されない安価な野菜を出荷できる。さらに外食企業の社員に農業体験研修を提供できるうえに、当社も農業の収益構造がわかり、具体的に産地に交渉、指導できる」とメリットを説明する。
仕入先の比率は出荷状況や生産状況によって流動的で、たとえば市場7割・産地3割の場合もあれば、その逆もある。 仕入先比率が流動的な理由は、欠品を出さない「絶対供給」という原則にある。「欠品を出さないことは信用につながる」(竹川氏)と考え、不作による欠品リスクを除去しているのだが、さらに価格と品質にも最適解を導き出している。仕入ルート別に価格と品質を比較しながら、納入先にとって最適な価格と品質の品を仕入れているのだ。 コンサルティング営業も同社の特徴である。前職で培ったノウハウは、仕入れの見直しによるコスト削減や、新メニュー開発などを提案している。しかもメニュー提案に、自社農園で野菜を活用できる強みもある。 コンサルティングには情報収集力も問われるが、「私は外食企業のコミュニティと外食記者のコミュニティに参加しているので、“次に何が来るか?”について、最新の情報を入手しやすい」(竹川氏)という。コミュニティから得た情報で取り扱いを始め、ヒットさせた食材の一例にはパクチーがある。
当面の目標は、毎年1・5倍成長を持続させ、2020年に売上高100億円達成だ。株式上場は「計画段階には入っていないが、2020年を上場するかどうかのメドにすることを考えたい」と竹川氏は打ち明ける。 1・5倍成長に向けて新事業にも着手する。「フクフクフクリやさい」とネーミングした福利厚生サービスの提供で、毎月10品目の野菜をセットにして、提供先企業が社員の妻に贈呈するのだ。企業への提供価格は月3000円に設定した。毎月家庭に野菜が無料で送られてくること自体ありがたいが、このサービスの目的は農業の啓蒙にある。 「家庭に届けるのは、ただの野菜ではない。無農薬であることは当然で、さらに“超こだわった野菜”“食べたことのない美味しい野菜”などが特徴だ。生産者の顔がすべて見えるトレーサビリティーも徹底させる」(竹川氏) 先に日本一になれる可能性のある事業として創業したと紹介したが、そもそも竹川氏は「農業は日本一になれる業界」と考えている。農業は数十年にわたって仕組みが変化していない業界であり、絶対的な力を有する大手事業者も少ない。もっと効率的に改革し、様々なアイデアを提供すれば大きく変貌するのではないか、と。 「農業を誇り高い産業にしたい」。同社の戦略的な事業展開は、この志に由来している。
経済ジャーナリスト
小野 貴史