何百台ものクローラー用サーバーを置いていたためにコスト負担も大きい。なんとか検索エンジンを普及させるために、一日3000~4000人の女性が自分のHPを作ることに着目し、女性用のブログCROOZblogを作った。ブログの一番下に検索エンジン窓をつけ検索を促すためだ。それでも検索数は増加しない。しかし予想外のことが起こる。
「このブログが女性の支持を受け、月間700万人の女性のユニークユーザーを獲得してクルーズを救うことになるんです。そしてCROOZblogの愛用者たちがこの頃からはじめていた自社のモバイルのEコマースに移行してくれたんです」。
広告・人材事業で2007年に上場を果たしたクルーズ。その頃に上場してキャッシュを得た若い経営者たちは、熱に浮かされたように会社を次々と買収して売上高を増やすことに血道を上げていたが、小渕氏の動きは違った。2009年、主力であった両事業を売却したのだ。
「売却・撤退で上場後に約52億円あった売上は約37億円まで減少しました。広告・人材事業は売上高は大きかったのですが、営業利益はほとんど赤字だったんですね。何の会社かをはっきりさせることが重要と考え、売上高にこだわらずにコアでない事業から撤退し、経営資源を得意なモバイル分野に集中したのです」。
小渕氏の冷静な「選択と集中」は見事に当たった。2010年、Mobage・GREEの大ヒットにより、ソーシャルゲームブームが到来する。「神魔×継承!ラグナブレイク」や「アヴァロンの騎士」など、Mobageの人気ゲームランキングの上位に並ぶようなヒット作が数々誕生し、ソーシャルアプリケーションプロバイダー企業としての知名度を上げた。ゲームを中心にしたモバイル分野は確実に成長を遂げ、2012年には約234億円まで売上を急拡大させた。
時を同じくして、長年の懸案事項だったEコマースもテコ入れの結果、成長を始める。
「その頃は服からカニ、ダイエット食品まで扱っていたのですが、それはやめようと。最も売れていた「服」に特化したEコマースをやろうと2012年にリニューアルしたのがSHOPLIST.comです。何でもありではダメ、こういったサイトですと一言で答えられないとダメなんです」。
2009年にはウェブドゥジャパンからクルーズに商号変更を行う。この社名には小渕氏の思いが込められていた。
「クルーズとはこれからは一人でやるネットサーフィンじゃない、皆でやるネットクルーズだという思いからです。Yahoo、Googleなどインターネットの偉大な会社の社名には「oo」がついていますよね。クルーズも「CROOZ」なので、伸びると思いますよ(笑)」。
社内からの反対はなかったのだろうか。
「少数ですが前のままでもいいという社員達もいました。ですが『ベンチャー企業の社員たる者は変化を恐れていてはダメだ』ということで結局商号は変更しました」。
「よく会社をひとつの船に例えるのですが、僕は経営者の役割として、直接船の舵を握るというよりは、潮目を読みながら船の行き着く目的地を示すことが大事だと考えています。」
波の大小が激しい今、大きい波を見極めて、ユーザーと時代のニーズが重なりあったときに一気に波に乗れるように準備していると語る小渕氏。今後も時代の変化の波にいち早く乗り続けるだろう。