ところが1年以内に全員が退職し、その翌年も同じく60人の新卒を採用したが、またしても1年以内に全員が退職したのだった。入社前に知らされた就労環境と現実が、あまりにもかい離していたとしか思えない。
「仕事が楽で、儲かる事業であるとハードルを下げて説明をしたら、計画した採用数を確保できた。しかし、入社してみたら、現実はしんどいじゃないか・・・と。新卒採用には数千万円の費用がかかったが、無駄になってしまった」。
そう語る創業社長の安藤正弘氏は、この原体験からか、成長の原動力を尋ねると「人材の強化に力を入れてきたこと。よい人材を揃えないと何もできない。このことは『ビジョナリーカンパニー2-飛躍の法則』にも書かれてある」と即答した。決め手は採用である。
2年連続で新卒採用に失敗した教訓は、次の年に活かされた。一次選考は10人単位の面接を実施して、NHK番組「プロジェクトX」の録画を見せ、安藤氏が同社の理念や価値観を話す。二次選考はフリートークで、最終選考では「『大企業に入るよりも、いっしょに大企業をつくろうよ』と入社を口説いた」(安藤氏)。この取り組みは、やがて「日経ビジネス」の「採用試験を受けた先輩が勧める企業」ランキングで32位、建設・不動産・エネルギー業界では5位にランクされるほどの成果を生んだ。
では、同社にとって「よい人材」とはどんな像なのだろう。安藤氏の考えはシンプルである。「健全な価値観を持った人間性を重視している。これが欠けている人は社内をギクシャクさせて社風を悪化させ、周囲がマイナスのエネルギーを費やしてしまうことになる」。
健全な価値観を見分ける手段は作文で、テーマは「親の人生観」。客観的な記述にとどまっているか、それとも親の人生と自分との関係をひもとき、感謝の思いが込められているか。その如何で人を愛し、健全な人間関係を築けるかを判断している。