2006年より開発を続けている仮想通貨で、ビットコインよりも古い。スコットランドのエアーという街に拠点を構え、現在約30名以上の開発者を従えている。
MaidSafeはブロックチェーンでもなければDAGでもない、全く新しいシステムを構築しており、そのプラットフォームはSAFE Networkと呼ばれる。SAFE Networkはデータを保存できるネットワークで、保存されるデータは世界中のノードに分散化され、高度に暗号化される。スマートコントラクトの実装も可能だが、そのコードすら分散保存されるという。
この仕組みにより、SAFE NetworkではProof of Workのようなマイニング行為は不要で、トランザクション処理能力は100万件/秒(イーサリアムが15件/秒、VISAが4,000件/秒)を優に超える。
(MaidSafeの詳細はこちらの解説記事を参照されたい)
そんな夢のようなプラットフォームを目指すMaidSafeは、2006年からほぼ自己資金のみでスタートした。2014年にICOを行い、約6億円を得て開発をさらに促進したが、今でも資金は最小限に留めながら、来年のフルローンチを目指して実直に開発を続けている。
さて、そんなMaidSafeは今年インドのチェンナイにも開発拠点を設立し、いよいよフルローンチへ向けて大きな前進を見せている。開発者も世界中に広がり、先日、本拠地スコットランドで初めてのディベロッパーカンファレンスが開催された。
筆者は同カンファレンスに参加する機会を得ることができ、MaidSafeの開発者コミュニティを直に見ることができた。この記事は、世界的に注目を集める自律的分散型プラットフォーム『MaidSafe』のカンファレンスレポートである。
スコットランドはAyr(エア)、グラスゴー空港から車で40分ほどのこの街で、カンファレンスは開催された。
なぜこんな場所で開催されるのかというと、MaidSafeはこの街で誕生したからだ。開発を率いるDavid Irvineとそのチームは、10年以上経った今でもこの街で開発を続けている。MaidSafeCoinはPoloniexに上場され、今年はインドのチェンナイにも開発拠点が築かれるというのに、自らのスタイルを貫き地元で開発を続けるというのは、このプロジェクトの実直さを表しているのかもしれない。
カンファレンスは、おそらく結婚式でも開かれるかのような小洒落た建物で開催された。MaidSafeはその予算の多くを家族や仲間、或いはICOやクラウドファンディングからの出資で賄っているが、この場所はそれなりにお金がかかっているのではないかと感じた。開発者たちとの交流をとても大切にしていることが伺える。
カンファレンスは朝9時から始まった。参加者は全員プログラマーやエンジニアで、皆がなんらかの形でMaidSafeに関わっていたり、関心を抱いている。
創業者であるDavid Irvine氏の挨拶から始まり、プロジェクトの細部に至るまでMaidSafeのスタッフから様々なプレゼンテーションが行われた。
カンファレンスの内容は本当にプログラマー向けだったので、その詳細をここに記すのは困難を極めるが、このプロジェクトがいかに真摯に進められているかが随所に感じらた。
後半には、アップルのデベロッパーカンファレンスのように、MaidSafe上のアプリを制作しているいくつかのチームによるプロジェクト紹介もあった。
カンファレンスの後は別会場でディナー会が催された。ランダムにテーブルにつき、お酒を交えながら参加者たちの交流が深まった。
さて、MaidSafeプロジェクトの詳細については、こちらの解説記事をご参照いただくとして、この記事ではさらにMaidSafeの素顔に迫りたい。
筆者はカンファレンスの翌日、MaidSafe社のオフィスを訪問する機会を得た。このエアという街は一見なにもない小さな街に思えるが、ホテルから車を走らせること10分、たしかにMaidSafe社の本社ビルがしっかりとお目見えした。
筆者が行動を共にしていたMaidSafe Asiaのメンバーたちが、代表のDavid氏や他の幹部たちとミーティングをするということで、本社を訪れた。
オフィスの中は広々としており、テック企業にありそうなパソコンによる疲弊感は全く感じられない。スコットランドや北欧特有の、落ち着いた静けさがオフィスの中を包み込んでいる。
どうやらこのオフィスには、各地から開発者が集まっているようだ。
オフィスの訪問を終え、筆者はMaidSafe Asiaのメンバー2人とエアの街を散策した。今回の滞在中はこの2人とよく行動を共にしたが、2人ともプログラムに精通しており、実に有意義な話を聞かせてくれた。
例えば、そのうちの1人はエドワードさんで、インドネシアのジャカルタに住んでいる。しかし生まれがロンドンということもあり、大変流暢な英語を話される。
エドワードさんはジャカルタでAndroid用のシステム開発をしており、土日にMaidSafeに携わっているそうだ。そう、彼の場合MaidSafeに関する活動は全てボランティアと言っていい。実は、MaidSafeでは多くのプログラマーがボランティアで協力している。純粋に、プラットフォームの可能性に魅入って関わっている人たちがほとんどだ。
エドワードさんがジャカルタでMaidSafeのイベントを開催した際は、数百名は優に超えるプログラマーたちが参加したそうだ。皆MaidSafeの実用化に大きな関心を示していたそうで、投資家中心の仮想通貨コミュニティが多い日本とは環境が異なりそうだ。
エドワードさんとは以下のような会話をしたことが印象に残っている。
筆者「SAFE Networkはブロックチェーンを凌駕するプラットフォームと言われ、実現したらとても有効なソリューションとなりそうですが、エドワードさんはブロックチェーンは今後なくなっていくと思われますか?」
エドワードさん
「データ保存という観点から言うと、ブロックチェーンはそもそも全く利に叶わないと思います。なぜならブロックチェーンは全てのデータを保存するというのが基本原理で、すなわちマイナーは大容量のチェーンを保存しなければならないのです。ここに例えば映画とかもっと大きなデータを保存するとなるとどうなるでしょうか?たちまちマイナーたちはパンクしてしまいます。
また、今のトランザクション履歴だけでも、ビットコインはすでに数百ギガバイトを超えています。今後ビットコインの普及が進むと、テラバイトは優に超えてくるでしょう。とてもじゃありませんが、このような大容量チェーンを扱うのは困難を極めると思います。でもそれ以外の用途では、ブロックチェーンも有用な面があるかもしれませんね。」
データ保存に関しては、SAFE Networkでは一つのデータを無数の断片に分割して、各ノードの空き容量に保存する。全てのマイナーが全てのデータを保存しなければならないブロックチェーンとは異なり、同じことをブロックチェーンでやろうとするとたちまちパンクしてしまうだろう。現時点でのトランザクション処理でさえ限界を迎えている状況である。もちろん、オフチェーンでやれば良いという案もあるかもしれないが、オフチェーンとはつまりブロックチェーンの外側、具体的には何らかのサーバー等を指す。つまり、サーバーを使う時点で分散型とは言えない。
エドワードさん
「ビットコインが普及してブロックチェーンがさらに大容量になったら、マイナーたちはさらに集中化するでしょう。大型のネットワークサーバを備えるマイナーがマイニングにおいて優位性を持てるようになるでしょうが、そうなったらそもそも分散型というコンセプトはどこへいくのでしょうか?」
MaidSafeは分散型というアイディアを徹底して実行しようとしているため、その観点から言うと現在のブロックチェーンはあまり有効ではないと映るようだ。
MaidSafe Asiaからはもう1人メンバーがいた。彼とも常に行動を共にしたが、彼はまた個性的な人だった。
まず、彼に写真を撮ってもいいかと尋ねると、ネット上に写真をアップすることは控えているとのこと。facebookもインスタグラムも2年程前に全てやめたらしい。理由を尋ねると、
「SNS上の個人データは全て運営企業により利用され、売られているからね。それに気づいてから、使うのをやめたんだ。」たしかに、特に仮想通貨に関わる人たちの中ではこの問題は頻繁に囁かれている。
しかし、仮想通貨という最先端のものに関わっていながら、自らの考えに基づきSNSを一切使わないというスタンスは、時代に流されないという意味で貴重だ。
しかしこのお2人を含め、MaidSafeの人たちは本当に良い人たちばかりだった。彼もまたボランティアでMaidSafeに関わっており、にもかかわらずMaidSafe Asiaの中心人物として活動している。現地で初めて会ったときには、長旅の筆者を気遣い、サンドイッチやヌードル、スリッパまで用意してくれていた。
さて、書き続けるとキリがないが、MaidSafeは協力者たちのみならず、自身も2006年から今まで、必要最低限の資金で地道に開発を続けている。
このように皆が理念を共有し、信念のみで行動しているプロジェクトは、分散型のプロジェクトとして一番強いのではないかと思う。P2Pに基づく仮想通貨の各種プラットフォームは、インターネットが消えない限り消滅することはないが、MaidSafeは社会がなくならない限り、なくなることはないと感じた。
MaidSafeはおそらく来年にSAFE Networkのフルローンチを目指す。本当のDAPPSとも思えるこのプロジェクトの動向を、これからも是非見守りたい。
MaidSafeのオフィシャルサイト
MaidSafeの解説記事
MaidSafeJapanのFaceBookページ
執筆者:ルンドクヴィスト ダン